十二月二十二日(木曜)くろ

 いろはもみじの紅い葉が散って、ウッドデッキを彩っている。きれいだなあ。

 私はしばし、自然がもたらした美しさに見惚れた。

 今日はことに寒さが堪える。

 雨上がりのウッドデッキに、足跡をつけながら歩く。

 今日は、子どもたちはどうしているかな。

 餌場に行くと、命の水とかりかりが少し残っていた。

 ああ、誰か先に来たのだな。

 私は残りを食べ始めた。

 ……右足の怪我が痛い。寒さが突き刺すようだ。

「くろ、来たの?」

 ニンゲンが来て、ガラス戸を開けた。

 私は驚いて、数歩後ずさる。

「くろ、足、大丈夫? かりかりもっと食べる? 牛乳も飲んでね」

 私はすぐに、かりかりを食べるため近くに行く。

 そうだ。このニンゲンは大丈夫だったんだ。

 安心して、ごはんを食べる。

 まだ若くて、子どもたちもほんの子猫だったころ。初めてここを通りかかったとき、このニンゲンは同じように笑いかけてくれた。私は、立派な野良猫だったので、最初はものすごく警戒をして、ブロック塀の上からニンゲンを見ていた。そして、ニンゲンが置いてくれた煮干しを、ニンゲンがいなくなってから食べた。

 あれが始まりだった。

 ブロック塀からウッドデッキの端へ、そしてウッドデッキの中央へ。

 その後、ガラス戸のすぐ際まで行き、ごはんをもらうようになった。

 ……ありがとう。

 ごはんを食べ終わり、ガラス戸越しにニンゲンの顔をじっと見つめる。

「くろ、もう行っちゃうの? 中に入ればいいのに」

 でも、私は立派な野良猫ですから。

「こくろたち、今日来るかな?」

 声かけてみますね。私は違うけれど、子どもたちは耳をカットした地域猫になっています。これからもよろしくお願いします。

 私はふいとニンゲンから視線を逸らすと、曇天の中をゆっくり歩いていった。

 子どもたちの耳は切れている。

 つまり、繫殖力はもうないということ。

 私と妻のように子どもを増やすことは叶わない。

 それは少し、さみしいことだ。

 私と妻と、四匹の子猫たちがウッドデッキでくつろいでいた頃のことを思い出す。

 それでも、飢えずにごはんがもらえて、安心出来るのであれば。

 今日は子どもたちの誰にも会えない。みんな、どこかで暖かくしているのだろうか。

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