十二月二十日(火曜)みけ

 今日、あたしは二度目。

 一回目はこくいちと来て、こくいちが先に命の水をのんじゃったから、あたし飲めなかったの。心残りだったから、もう一回来てじーっと待っていたの、ソファで。そうしたらニンゲンがたっぷり命の水、くれたんだ。よかった。

 ああ、おいしいな。

「みけ。今日さ、くろだけ見ていないの。くろ元気? くろに来るように言ってね」

 ニンゲンがじーっとあたしを見る。あたしも、じーっとニンゲンを見る。

 うん、分かった。

 くろ父さんに会ったら、ここに来るように言っておくよ。

 命の水を全部飲み干すと、くろ父さんを探しに出かけた。

 くろ父さん、どこにいるかなあ。白い大きなおうちかな。

 あそこのうち、春になると桜がいっぱいに咲いて、本当にきれい。あたし、桜のじゅうたんの上で遊ぶの好きなんだ。ふふ。

 あ、いたいた、くろ父さん!

 ――あ! お父さん、怪我してる!

 くろ父さんは右の前足の真ん中あたりを怪我していた。血がついて、毛がなくなっている。くろ父さんの黒い毛が。

「にゃう(お父さん、大丈夫?)」

「にゃー(ああ。大したことない)」

「にゃーう(どうしたの?)」

「にゃーん(自転車にぶつかったんだ)」

 自転車。

 自動車と同じくらい、危ない。

 あたしは自動車に轢かれて死んじゃったお母さんの顔を思い浮かべた。それから、自動車にぶつかって大怪我した跡が残っている、くろ父さんの右の額を見た。

 お父さん、気を付けてね。まだまだ生きて。

 あたしはちょっと涙が出た。

 くろ父さんはずっと、すばしこくて強くて、事故に遭ったりしない猫だったんだ。お母さんが死んじゃって落ち込んでいたときに大怪我をして、それ以来やはりどうしても衰えが隠せない。お父さん、右の目、見えているのかな。

「にゃあん(命の水くれるって、あの家の人間が言っていたよ)」

「にゃうん(おお、それはいい)」

 そして、くろ父さんはあの家に向かった。

 お父さん、命の水をいっぱい飲んで、元気になるといいな。早く怪我が治りますように。

 祈りを込めて、くろ父さんの後ろ姿に小さく「にゃー……」と言った。

 ちゃんと歩いている。よかった。

 くろ父さんの怪我のこと、こくいちとこくにに言わなくちゃ。

 あたしは冷えた道路を駆けて行った。

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