十二月十九日(月曜)くろ
「にゃあぁぁーーーん(子どもたちー おいでー)」
「にゃあーーーーん(はぁーい)」
「あら、くろ、いたの?」
子どもたちを呼んでいたら、ニンゲンが現れたので私は驚いた。
そう、いたのです。今日は天気もいいし、ウッドデッキで日向ぼっこをしていたのである。子どもたち、どうしているかなと思って呼んでいたのですよ。
「くろー、牛乳だよ~」
ああ、命の水ですね。最近、私はどうもかりかりがたくさん食べられなくなってきていて、命の水はほんとうにありがたいのです。
私は命の水を一生懸命飲んだ。
思えば、もう十年以上になるなあ。この家とのつきあいは。
この家に通い始めたころ、小さかったニンゲンがいたが、なんだか大きくなってしまった。私の子どもたちもすっかり大人になったけれど。ここに通い始めたころは、まだ妻もいたし子どたちもほんの子猫だった。
よっこいしょと。
私はテーブルの上に乗って眠ることにした。
ここはよく陽があたって、暖かいのだ。
まぶたが閉じる。
……子どもたちはまだ来ない。返事は聞こえたんだけど。……今日は会いたかったなあ。
ひと眠りして散歩に出かけると、みけに会った。
――みけ、あのうちに私が食べ残してきたかりかりがあるよ。
――くろ父さん、ありがと! 行ってみる!
みけの後ろ姿を見送る。
小さいころは兄弟みんな連れて、いろいろな場所に行ったものだ。そう、ほんとうは四匹だったんだ、妻との子どもたちは。一匹は車に轢かれて死んでしまった。あのときはほんとうに悲しかった。そして、妻との別れは私をどん底まで落ち込ませた。
妻はミルクティーのようなベージュ色の猫で、うっすらと縞々が入ったきれいな猫だった。車に轢かれた子猫も妻と同じ柄をしていた。妻は臆病な猫で、ニンゲンの前にはあまり姿を見せない猫だった。だから、私が子どもたちを連れて、安全な場所やごはんを食べられる場所などを教えて歩いたのだ。妻はいつも緑の陰に隠れて、そんな私たちをそっと見守っていた。ただ、ときおりいっしょに出てくることもあって、あの家のウッドデッキでは私や子猫たちといっしょにかりかりを食べたり、日向ぼっこをしたりお昼寝をしたりと、ニンゲンに姿を見せてくつろいだりもしたものだ。……なんて懐かしいのだろう。
妻は身体が弱く、数年前の冬に動かなくなってしまった。
……妻がいなくなって、私はしばらくうまく動くことが出来ずにいた。そして、事故に遭い、頭に大きな傷を負った。死んでしまうかと思ったけれど、どうにか生き延びることが出来た。
私は道路を歩きながら、今にもその角からベージュの猫が出て来ないかと期待した。
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