十二月十七日(土曜)こくいち
あたしはね、じーって待つ派なの。
ニンゲンが気づいてくれるまで、ひたすらガラス戸のこっち側でじーって待つんだよ。そうして待っていると、「あ、こっくー、いたの?」とかなんとか言って、ニンゲンが来てくれる。そうしたら、あたしはちょっと後ろに下がって、かりかりや命の水を入れてくれるのを眺めるのが好きなんだ。こくに兄ちゃんは気づかれなかったら、かりかりやるけどね。ニンゲンも「かりかりってやって教えてね」とか言うけど、あたしは奥ゆかしいレディだから、そんなことはしないんだもん。
そもそも、この家を教えてくれたのは、くろ父さんで、兄弟の中で通い始めたのはあたしなんだよ。みんなは近くの白い大きなおうちに通っていたけど、あたしはこじんまりしたこのおうちが気に入ったの。ウッドデッキもいい感じだし。
だから、あたしがくろ父さんの子どもの黒猫で、「こくろ」って呼ばれたんだ。
その後、子どもの黒猫が二匹いることが分かったニンゲンは、初めに来たあたしを「こくいち」、お兄ちゃんを「こくに」って名づけたの。お兄ちゃんのが後から来たってことは、名前からも分かるでしょ。
でね、今日はね、あたし、ひとりで来たの。
なんか、そういう気分だったんだ。
みんなで来たり、みけ姉ちゃんと来たりこくいち兄ちゃんと来たり。
あたしたちは自由に世界を歩く。
あたしはかりかりと命の水を独り占めにして食べた。みんなで食べるのも楽しいけど、ひとりの気軽さってのもあるよね。えへ。
ぴゅうと風がふいて、ひげをなでる。
でも、冬毛になって、毛がもふもふだから、ニンゲンが「寒くない? 大丈夫?」って心配するほどじゃないんだよ。だってあたしたち、たくましく生きてるもん。
「こっくー、おうちに入っておいで」
そっちは確かにあったかそう。
でも、あたし、こっちでいいよ。
もふもふの黒い毛皮を来て、今日も冒険に行くから。
「こっくー?」
うん、もう行くね!
ニンゲンはあたしのことを、「こくいち」とも呼ぶけれど、「こっくー」とも呼ぶ。そもそも「こくろ」って呼ばれてたんだけど、「こくろ」から「こっくー」に変わったみたい。
あたしは、「こっくー」って呼ばれるの、好き。
なんか、トクベツな感じがする。
あたし、こくに兄ちゃんより、命の水、好きだからたくさんちょうだいねっ。
そもそも、ここはあたしの場所だったしね。
あたしはじーって待つ派で、ときどき気づいてもらえなくて悲しい気持ちになることもあるから、なるべく早く気づいてくれると嬉しいな。
ブロック塀にぴょんと飛び乗り、ちょっとニンゲンの方を振り返った。
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