第1話・神様が言っている②
二
秋田県秋田市。
二十世紀の最後となる年を、僕はこの街で迎えた。
一九八〇年の生まれなので、二〇〇〇年は二十歳である。実に数えやすいし、人類の歴史と一緒に節目を迎えると考えれば、なかなかいい気分だ。
だけど僕の学生生活はうすぼんやりしていた。時代に取り残された感の否めない、極めて凡庸な日々だった。
東北の空気が好きだからという理由で、地元の山形県よりもさらに北の地の大学を選んだ僕である。どちらかというと変わり者の部類に入るかも知れない。だが、もとより都会的なキャンパスライフというものには関心がなかったし、地道に好きなことを勉強して、新しい環境に身を置ければそれで充分と考えていた。
殊更に新しい環境を欲したことについては、少しばかり特殊な理由もあった。それについては後述する。とにかく、当時の僕が必要としていた「新しさ」とは、モノや流行に関するそれではなかった。ただ、環境が今までと違うのであれば、まずはそれで良かった。必要なのは僕自身にとっての新鮮さだった。
とはいえ、秋田という土地が、モノや流行について遅れていたわけでもない。少なくとも僕にとって、この街は山形よりもずっと都会的に思われた。秋田駅に最初に降り立った時の感想は「東京の文化が、山形を飛び越えてこっちに来ている!」というもので、なにせ駅前にタワレコがあり、アニメイトがあった。僕が知っている山形のアニメ専門店といえば、知る人ぞ知る個人経営の店「アニメっこ」ぐらいのものだった(念のため断っておくと、僕はアニオタではない)。
そして僕は、間もなく知ることになる。秋田というのは、僕の第一印象だけでは到底汲み尽くしえないほど、豊かな歴史と文化を持つ土地なのだった。なにせ料理から芸能、方言に至るまで多くの古い伝統が保存されており、民俗物の宝庫とも言われていたのだ。
もっとも、僕が知らないだけで、山形にもそういう部分はあったのだろう。しかし地元民でないからこその感慨というのはある。僕が秋田という土地に対して感じたのは、よそ者ならではの興味関心だったと思う。
とはいえ最初は、ただ面白いと思っていただけだ。しばらくはのんべんだらりと過ごした。市の中心部から少し外れた学生街で、人生初の一人暮らしを始めたのである。本を読み、音楽を聴き、勉強をして友人と交流する。だけど就職など先のことはよく分からない――。毎日がそんな調子で、きっとこんな調子で学生時代というのは過ぎていくものなのだろう、と僕は漠然と考えていた。
そう。想像もしていなかったのである。この秋田市という街で、僕はいくつかの不可思議な出来事に遭遇したり、異常な出来事に巻き込まれる運命にあったのだ。それらは後で思い返してみても、どれもこれも一生涯忘れることができない、全く驚くべきものばかりだった。
これから書くのは、記録というよりも思い出話である。
語り部は、二十歳になった僕。昨日まで十代だった自分が、今日から二十歳になることになんの意味があるのかさっぱり分からないままに、とにかく誕生日を迎えてしまった僕だ。
そして語られるのは小春という一人の少女である。人間離れした不可思議な能力を持つ、おさげ髪のイタコ少女――。
これは、僕と彼女との物語なのだ。
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