なぜか、学校で一二を争う腕っぷしの先輩たちに告白された件
白野さーど
第一章だっ!
第1話 目が覚めたら女子更衣室
高校生活、三日目。
僕・
「ここは……どこなんだろう……?」
…………困惑の色に染まっていた。
それは、ほんの十分前のことだった――。
『んっ……んん?』
僕は、薄暗い室内の真ん中にあるベンチの上で、横になって眠っていたのだ。
最初は夢かと思ったけど。どうやら違うらしい。
段々とハッキリしてくる意識の中、扉の隙間から微かに漏れていた光を頼りに、部屋を出ようとしたのだけど。
『えっ……開かない?』
スライド式ではない扉は、押しても引いてもビクともしなかった。
それならせめて明かりでも、と思って扉の近くにあったスイッチを押してみたのだけど。
パチッ。
パチッ、パチッ。
パチパチッ、パチパチッ。
何度押しても、明かりは点かなかったのだった――。
……。
…………。
………………。
そして、今に至るという。
「うーん……」
助けを呼ぼうにも、ズボンのポケットに入っていたはずのスマホがなかったことが気掛かりだ。カバンに入れた記憶はないし……。
「………………」
自然と不安が増していく一方、この薄暗い室内を見渡すことで“二つ”の情報を得られたことが、唯一の救いかもしれない。
ズラリと並んだロッカーと、部屋中に漂う柑橘系の香り。この二つだ。
僕の知る限り、その両方が揃う場所は…―――― “更衣室”しかない。
……ということは、つまり、僕はいつの間にか更衣室のベンチに寝かされていたということになる。
更衣室があるのは、確か部室棟だったはず。
でも、部活の勧誘を受けた記憶がない僕が、そんなところに運ばれた理由はなんだろう?
深まる謎が、謎を呼ぶ。
でも、なんだろう。この感じ……なんだか、嫌な予感が…――
「…………っ」
ゆっくり扉の方を見ると、突然ガチャリと音を立てて…………開いた。
「そこのお前、ここでなにをしている?」
扉の前に誰かが立っていた。
僕を、キリッとした瞳で睨みながら……。
「誰だ、貴様?」
「え」
僕は……今起きた状況をすぐに飲み込むことができなかった。
目の前の人物が、黒と紺のセパレートタイプのユニフォームを着ていることと、お腹と脚がとても引き締まっていることを除いて…――
「――おいっ、聞いているのか?」
声を発すると同時に、短髪の黒髪から滴り落ちた汗がユニフォームに染み込む。
そして、その汗が、“彼女”が運動直後だということを教えてくれる。
「おいっ、ここは“女子更衣室”だぞ。男が入っていい場所じゃ……まさか、
「!!? ち、違います……っ!!!」
「ほほぉ~? では、なぜここにいた? しかも、あたしらが使っているベンチに堂々と座りやがって」
「ッ!? そ、それは……実は、僕にもなにがなんだか…………というか、ここ女子更衣室なんですか!?」
嘘、でしょ……?
「この
「そ、そんなことは……」
「『入る部屋を間違えた』と言っても、もう遅いぞ? お前は、すでにこの部屋に入ってしまっているのだからなっ!」
そう言って体をグイッと近づけてくることで、ユニフォーム越しでもわかるその大きな膨らみが目の前に……
(…………ハッ!)
想像してしまった瞬間、慌てて顔を逸らしたのだけど。
それが逆にまずかったのか、鋭かった視線がさらにその鋭さを増した。
「さっきから、なにジロジロ見ているんだ?」
そう言って近づいてくると、顔を逸らしても視界に“それ”が入ってくる。
目のやり場に困るとは、まさにこのこと。
ちなみに、彼女自身は見られたことに全く気づいていない。
「おい」
「は、はい……っ!!」
「どうしてお前がここにいるのか、早く答えろ」
「え、えっと……それは…――」
それから、かくかくしかじかと事情を説明したものの、
「もし、本当に身に覚えがなかったとしても、女子の更衣室に入ったという事実に変わりはない。そうだろ?」
「で、ですよねー……」
信じてもらうには圧倒的に情報量が少なすぎだった。
自分が向こう側なら、まず信じないだろうな……こんな話……。
「それ以上話すことがないのなら、職員室までついて来てもらおうか」
「……っ!? だ、だからっ、さっきも言いましたけど、僕は――」
そのとき、聞き慣れた声とともに誰かが部屋に入ってきた。
「
「ね、姉さん……っ!?」
そう。声の主は、僕の姉である
「どうして、姉さんが……」
現れるはずのない人物の登場に、ただただ驚くことしかできなかった。
すると、それ以上に驚いていたのが、
「なに、『姉さん』だと?
へ、変質者……!? ……ん? 今、この人……姉さんのことを呼び捨てで呼んだ?
ということは、姉さんと同じかそれより一つ上の先輩ということになる。
まだ三日間とはいえ、同じ階で見たことがないから間違いない。
でも……あれ? よく見たらこの人……どこかで……
「なにがあったの?」
「ああぁ。実はな――」
かくかくしかじか。
「えぇえええーっ!? み、瑞樹が、更衣室に侵入した……ッ!?」
「ああ、そうだっ」
「瑞樹が……そんな……シクシクっ」
――チラッ。
「お姉ちゃん、信じられない……シクシクっ」
――チラッ。
「………………」
……なんともわざとらしい。まさに大根演技と言っていいだろう。
「信じられないようだが、女子更衣室に侵入していたことは紛れもない事実なんだ」
「うーん。そうみたいだけどー……あの瑞樹がねぇー……」
こうなった以上、この場において、姉さんだけが頼りなんだ……っ。
「
「うんっ!」
姉さん、ありがとう……っ!! 今度、お礼になにかご馳走を作るよっ!
「うむ……。
「じゃ、じゃあ……っ」
「だが、これとそれとは話が別だ」
あっ……ですよね……。
それから状況が動かないまま時間だけが過ぎていると、
「あっ。今、いいこと思いついちゃったんだけど〜。聞きたい〜っ?♪」
「………………」
姉がニヤッと笑みを浮かべたとき、それは…………嵐が起こる前触れだっ。
十何年一緒に暮らしてきた家族だからこそ気づける、“サイン”。
あの顔を見るたび、今まで振り回されてきたことが……。
………………。
まず、両手では足りない。足を数に入れても……足りない。
(一体、なにを……企んでいるんだろう……?)
経験を踏まえて身構えていると、
「瑞樹が秋の言うことをなんでも聞くっ! なんてどうかなーっ?」
……僕がこの人の……言うことを……なんでも聞く……?
「は、はい……っ!?」
予想の斜め上をいく一言に、口がポカーンと開いてしまった。
「今、『はい』と言ったな?」
「……え?」
「おぉ~おぉ~っ! やる気満々じゃ~んっ♪」
「……っ!? い、今のは、そういう意味で言ったわけじゃないというか、驚きのあまり口から思わず出ちゃったというか……っ」
「言い訳は無用だ。返事をしたのだから、素直に受け入れろ」
「え、えぇ……」
すると、姉さんがポンっと肩に手を置いた。
「まぁー頑張れっ♪」
「………………」
姉さんのこの反応……もしかして…――
「こ、これで……」
……ん?
「こ、これで…………ふふ……っ」
武藤……先輩はなにかを呟くと、急に手をモジモジし始めた。
頬は赤く染まり、潤んだ瞳が落ち着きなくキョロキョロと動いている。
まるで、自分の心情を必死に誤魔化すかのように……。
(……なにがそんなに恥ずかしいんだろう?)
思わず首を傾げていると、
「あ、あたしと……」
「……はい?」
赤みがかった頬はそのままに、真っ直ぐな瞳がこちらに向けられた。
そして、次の瞬間。
彼女の口から、姉さんの発言の
「あたしと………………付き合えっ!」
…………へっ?
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