第16話 レズの世界にちょっぴり共感

 ある新興宗教の女性信者の大部分は、失恋した女性が多いというが、レズも失恋というよりも、男性から傷つけられた女性が多いというのは、共感できる。

 しかし、ゲイの世界は二十年以上も昔から、残念ながら少年をレイプしたりするホモレイプが、問題になっている。

 従って、アメリカではゲイはひどい差別を受ける

 そしてレイプされた少年は大人になり、また別の少年をレイプしようとする。

 ここにレイプの連鎖が生ずる。

 ある女性曰く「私はゲイには反対です。しかし彼らの人権は守られるべきものだと思います」

 別の言い方をすれば、人権は守られておらず、ひどい差別を受けているという現実を物語っている。


 かといって、私はレズッ気など毛頭ないのであるが、多少の同情はできる。

 元風俗嬢であった石曾根ゆりの後輩の娘、あやねも男性から傷つけられた母親の影響で、知らず知らずのうちにLGBTー身体は女性でも、精神は男性ーになってしまったのかもしれない。

 もちろん男性には素手ではかなうわけがないので、カッターナイフを持ち出したのだろう。

 しかしもしこれが、刃渡り15cm以上の刃物だと、所持しているだけで銃刀法違反になってしまう。

 だから、刃物をもつときはまな板やリンゴを用意すべきである。

 すると「調理が目的」ということになる。


 ちなみに金属バットも銃刀法違反の対象となる。

 しかし一緒にグローブを持っていると、そうはならない。

 未成年者ならいざ知らず、二十歳いや十八歳になってからは、知らなかったでは済まされない。


 考えようによっては、あやねは闇バイトに応募しなかっただけでも、救いがある。

 闇バイトに応募すると、身分証明書が求められ、家族にまで危害が及ぶ。

 身分証明書を見せたあと、テレビ番組通り待ち合わせをすると、スーツを着た一見サラリーマン風の二十代の男性がにこやかに迎え

「ようこそいらっしゃいました。この封筒の中にロッカーのカギがございますね」

 そのあと手招きをして、小声で「おい、お前はもう俺らの仲間だ。もう一生逃れられないぞ。今からお前を尾行させてもらう。ぬけようとすると、港湾に放り込むぞ」

 その言葉を聞いた未成年者は、蛇ににらまれたカエルのように、相手の言いなりになってしまう。

 しかし、どんな隠しごとでも「隠れていたものは暴露されるためにあるのであり、おおいをかけたものは、取り外されるためにあるのである」(聖書)

 その通り、いくら脅してもいや脅せば脅すほど、恐怖に怯えた未成年者はやさしく問い詰められると暴露してしまう。


「金銭を愛することは、あらゆる悪の根源である」(聖書)

 愛するというのは、第一にするという意味である。

 金さえあれば、幸せになれるというとんでもない話を信じ込む人が多い。

 確かに世間では、金を稼ぐ人が偉い人などという現金主義的な考えがはびこっているのは事実である。

 しかし、それはあくまで大金を稼いでいるときだけであり、そうでなくなったらチリが舞うように去ってしまう。

 大金であればあるほど、その危険性が強い。

 まさに現金なものである。


 話はもとに戻るが、警察もあやねの恐喝まがいの一件は初犯であるので、学校には伏せておくそうである。

 私立高校と同じである。なぜなら私立高校の場合は、自主退学を促されるからである。

 あやねは、中学に復学ーと言っても欠席したのは一日だけであるがーして勉強に励んでいるという。

 まあ、勉強さえできれば、家庭教師代わりにクラスメートに教えてやることもできる。

 石曾根ゆりは後輩に頼んだらしい。

「あなた、一人娘のあやねだけは捨てちゃダメよ。たとえ刑務所に行っても、我が子を捨てた親は、冷遇されるというわ」

 母と子とは命でつながっている。だから、母親は子供を愛して当たり前。

 しかし、父親と子とは命ではつながっていないので、父親の愛こそ本物である。


 私は石曾根ゆりが更生してくれるのを願った。

 幸い、麻薬には手を出していないので、更生の余地は十分にある。

 警察からは、カッターナイフを所持していたというだけの書類送検に終わった。

 

 話をもとに戻そう。

 私だけのアイドル原口店長は、ほっとしたような表情で口を開いた。

「あのとき、あなたが火事だあと叫んだおかげで、乗客はこちらの方を振り向き、犯人もカッターナイフを振り回さずに済んだんですよね。

 結構、あなたって勇気のある人ですね」

 私は、半分お世辞だとわかっていても嬉しかった。

「そんなあ、でも私も少々怖かったですよ。でも私には相手の子が、そう悪党には見えなかったんですよ」

 原口は共感して言った。

「で、あの犯人もどきはその後、どうなりました?」

 私は一部始終を話すわけにはいかなかったので

「家庭に恵まれない子でね、実母の知り合いの女性に引き取られたんですよ」

 ふと、原口はため息をつきながら、マスターに

「珈琲、お替り。あっ、この人の分も。お礼のしるしに僕が奢りますよ」

 珈琲豆をひく香ばしい香りが漂ってくる。

「ここだけの打ち明け話。僕の父は自営業だったんですがね、僕が中学二年の冬、保証人になって、行方不明になったんですよ。

 それからは、母は働いて僕と弟の面倒を見てたんですよ」

 えっ、原口は意外な苦労人だったんだ。それでなんとなく貫禄を漂わせていたのだろう。

「それからの僕は、父の二の舞にならないように、金を稼ぐことを考え始めたよ。奨学金で大学を卒業したが、最近ようやく奨学金を返済して、ほっと一安心だよ」

 いつしか原口は、敬語ではなくなっていた。ということは、私に心を開いたのだろうか。

 私は感心して

「へえ、原口さんってどことなく貫禄のあるしっかりした人だと思ったら、やっぱり苦労人だったんですね。どことなく毅然とした雰囲気があると思ってました」

 原口は少し照れたように

「有難うございます。あっ、休憩はこれで終わり。仕事に戻りますね。

 今度もまた機会があれば、僕に奢らせて下さい」

 そう言って、伝票をつかんで背中を向けた。


 私は原口との間に、小さな架け橋ができたように思った。

 これを機会に友達として、話すことができるかもしれない。

 知り合って三年になった今、実った小さな恋ならぬ愛のような友情。


 世の中は一瞬先は闇か光か? なにが起こるか見当もつかない。

 コロナ渦に加え、物価高、ウクライナ間の戦争も二年目に突入しそうである。

 しかし、私はイエスキリストを信じて生きていく。

 キリストという信じられるものがあって、幸せである。

 私という人間自体が、キリストの伝道材料である。

 これからもキリストの愛をふりまきながら、生きていきたい。


 主にすがる我に悩みはなし 歌いつつ歩まん

 ハレルヤ ハレルヤ

 歌いつつ 進まん この世の旅路を


 そんな讃美歌を歌いながら、私は陽ざしのなかをスキップしていた。

 振り返ると、原口が微笑みを浮かべていた。


 END(完)

 

 


 

 

 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

こんな時代だからこそ恋しよう すどう零 @kisamatuma

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る