第64話 バカな私


私はレクタール家に仕えるパンダ。

 昔の名前を捨ててパンダと名乗っている。それは、お嬢様がまだ幼い頃、私の怖い顔で怖がられないように子供に大人気なパンダの着ぐるみを着ていた。


『アハハ!パンダさんだ!』


 笑うお嬢様が何よりも救いだった。私が今までしてきた罪は決して洗い流せないものだろう。こんな汚れきった私をレクタール家が優しく拾ってくれた。私はレクタール家、そして私なのに笑顔を向けてくれたお嬢様を何より大切で大好きだった。だから、私はお嬢様に忠誠を誓い幸せに生きてほしいと思った。


『そうか。お前は元最悪犯罪者組織の幹部○○○だったか』


 私の過去がバレてしまった。もし、私の様な大犯罪者がレクタール家が匿っていたとバレて仕舞えば、レクタール家が危ない。せっかく王権を取り戻せそうな所でレクタール家に迷惑をかけなくない。だから、私は1人で戦おうとした。だが、そんなの無理だった。相手は王族。私ごときが何かできる訳がない。私は言われるがまま、レクタール家の家の中にありもしない、裏の取引の資料を忍ばせてしまった。


『レクタール家を助けてやろうか?なら、お前は俺の下につけ。レクタール家を裏切ろ。本来お前の様な犯罪者を匿っている事は国の反逆者として打首になる。だが、お前が下につけば、あの家族を殺す事ないだろう』


私はバカだ。

 今、前国王が『レクタール家を助ける』と言う言葉に釣られて承諾してしまった。国王は確かに命は助けると言ったが、普通の生活として暮らせるとは言っていなかった。レクタール家は罪人として捕まり、お嬢様は前国王の息子の嫁にすると言った。私は悔しかった。自分の愚かな脳みそに...私はレクタール家を助けようとしたが、もし失敗をしてしまえば、またあの人達に迷惑をかけしてしまうのが怖かった。


「娘の為にやった事なんだろう?私はお前を責める気はない」


 私は捕まっているレクタール家の当主に訳を話して血が出るほど強く地面に頭を叩きつけて土下座をしていた。


「別に、食事も取れてるし、酷い拷問とか受けてないからな。ただ、私達が自由になっている事を恐れて隔離しているだけだ。それに、君があの国王のバカに従っていれば、私たちに危害は加えないだろう。君の実力からして国王は敵に回したくないと思っているからな。私達を囮にして君を支配する考えだろう」


「...」


「ごめんな?辛い思いをさせて」


「?!...いえ、私がバカだった為に、アイツらに騙されて、貴方達を酷い目に合わせた私が謝るべきなんです!本当に、申し訳ありません。もっと私に考える脳があれば...こんな事に...必ず、貴方達を救い出します」


「そんな事はしなくて良い。お前がやるべきな事は一つだけだ。クロエを頼んだぞ。あの子はまだ幼い。あの子の人生だけはアイツらに縛らる訳には行かないんだ。せめて、クロエだけを幸せにさせて欲しい。私は初めての娘だった事に過保護すぎた様だった。だから、娘を頼んだぞ。どうせ、私達はなんとか生きてられるさ」


それがお嬢様のお父様の願いだった。

 だから、私はお嬢様を助けようとしている白髪の男に、わざと負けてお嬢様の場所まで誘導させた。作戦は成功したのに、何故...戻ってきた?


「パンダ。立ち上がれ。お前の事は兄の様に慕ってきた。だが、お前は家族を裏切ったクソ野郎。殺したい程恨んでいるのに...頼むから戦って対抗してくれ。それはズルい。ただ首を差し出すのは殺さないよ。頼むから対抗して勢いよくボクに殺されてくれ」


初めてクロエに向けられる殺意にパンダは動揺する。

 例えクロエに憎められようとされても、幸せになれるなら、クロエの願いを叶えようと願った。


「お嬢様。最後の修行をしましょう。最後は、この私を殺してみなさい」


「...」


 パンダが構えた瞬間、クロエは踏み込みパンダに攻撃をする。パンダは大鎌の刃から避けて反撃をするが、パンダの次の動きが読まれて避けられる。だが、パンダはクロエの行動に怒りの声を上げる。


「甘い!!今ので私を殺さましたよね?まだ、私の事を味方として見ているのですか?私は貴方達を裏切った罪人です。貴方にとっての復讐相手...もし、次に舐めた行動をしたら、殺しますよ?」


「よく喋る様になったな」


「私の声は少々子供に怖がれる声ですからね」


 パンダの声は、ぬいぐるみから出ると思えない悪魔の様なガラガラとした声。パンダはクロエに怖がられる事が嫌だった事から、クロエの前にだけ喋らない様になってしまったのだ。だが、今のクロエとの関係は敵対同士。パンダにとってはどうでも良い事だったんだ。


「怖い?ボク的にはその巨体で、ずっと無言で何考えてるのか分からない方が怖かった記憶はあるけどね」


「っ...そうですか!」


 本当は無言なパンダに恐怖心を抱いていた事があった事にパンダは少し傷ついてしまった。


「さぁ、見せて下さいよ。本当に私を殺したいのならば、打ってみて下さい。私が教えた技を」


「言われなくてもやる!!」


するとクロエの魔力が黒く変色して、クロエの全身から爆発するか様に魔力が爆発する。その魔力の形は頭蓋骨そのもの形となる。


「殺鬼流・餓車髑髏がじゃどくろ


 膨大な魔力を纏った大鎌から、魔力の塊をパンダに飛ばした。


「(そうです。お嬢様...私が裏切ったとしても、私の様な罪人の為に、まだ泣いてくれるのですね。本当にお優しい...バカな私で、申し訳ありません)」


「本当...お強くなりましたね。お嬢様」


「っ?!」


クロエの両目から涙が流れていた。

 例え自分達家族を裏切った相手でも、昔から良くしてくれてた相手を殺すと考えるとクロエは苦しかった。


「(やっぱり、殺したくない)」


それがクロエの願いだった。

 だが、技はパンダに放たれて、パンダは避けようとはしなかった。その攻撃が当たると思った、その瞬間。目の前に天叢雲剣を持ったレイヤが現れて、クロエが放った魔力の塊を打ち消した。


「何考えてるんだ?全員、助けるんじゃねぇのか?」


「...レイヤ」


「コイツを殺すのは筋違いじゃねぇのか?話は聞いたぞ。コイツお前の家族なんだってね?なら、コイツも助けるべき相手じゃねぇのか?大馬鹿野郎」


「...え?」


レイヤの後ろに現れた人物にクロエは驚くのであった。




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