第63話 パンダ

「さて、赤髪の嬢ちゃんや。お主1人で大丈夫ぜよ?」


「うんうん、大丈夫大丈夫!今回は思い存分やれるから!前みたいに遊ばれないように頑張るね」


リンは船から飛び降りる。

そして炎を纏った剣で、炎の斬撃を飛ばした。


「ふんっ!」


ハクケンは斬撃を斬った。

 リンは素早く間合いを詰めてハクケンの胴体に剣を流すように薙ぎ払う。


「ほーう、前より速いぜよ」


 ハクケンはクルリと刀を回して、リンの両手剣を受け止める。そして、ハクケンはリンの両手剣を受け流し首に目掛けて刀を滑らせる。


「危ない!」


 フウカは心配の声を出すが、リンは足に力を入れて前方倒立回転飛びをして宙からハクケンに斬撃を喰らわせた。


「(攻撃が当たった?あり得ない!あの時は全ての攻撃が見えていたのに?!)」


 軽く肩に擦り傷を与えられた事に、ハクケンは目を大きくして驚いたのだ。まるで前回と戦った相手の実力が全然違っていたからだ。


「良いぜよ。良いぜよ。強い剣士はお好きぜよ」


「仲間を泣かす奴は嫌いだ。炎狼天えんろうてん


 一閃で、地面を抉りながら前方へ向かう2つの炎の斬撃を飛ばす。ハクケンは斬撃を斬ろうとするが、斬った時に飛び立った炎がハクケンを襲う。


「考えたぜよ。これは厄介。それに凄まじい威力だ」


「当たり前だよ。これはアタシの大好きな人の技なんだから。それに、アタシので驚いていたら、本物だったら死ぬよ」


2人は激しい剣と刀の打ち合いをする。

 飛び散る火花はまるで、群がる蛍だった。

ハクケンは超スピードでリンの後ろに回り込み刃を流れるようにリンの首に向ける。


炎果反射えんかはんしゃ!」


 当たった攻撃と思われたが、リンが剣を斜めに振り上げると何故か逆にハクケンの身体に大きな斬り傷を喰らう。そして、その切り傷から炎が燃える。


「(何?!この技は...いや、あの技なら今の一撃で仕留められていた。未完成か?...いや、それでもこの炎は厄介だ)」


「やはり歳だな...辞職の頃合いぜよか?楽な仕事と思ったが、もうしんどいぜよ。負けだ」


「あれ?呆気なく負けを認めるの?つまんないね。もっとやってくれると思ったのに...それに、王様は良いの?」


「もう、年寄りぜよ。そんな体力はない。それに私はこの国の国王なんぞ、正直どうでもよいのぜよ。別に仲裁も誓っておらぬ、たんなる護衛対象だけぜよ。私は負けたと言う事は、好きにするぜよ」


 ハクケンは刀を鞘にしまい、体をフラフラも揺らしながら街の奥に帰ってしまう。この戦いを船の上から見ていたフウカ。


「(お見事です。この数ヶ月の間、凄まじい成長速度に驚かせられてばかりですね。2人の夢を邪魔だけしない様に、私も強くならけばな...いや、2人の夢を手助けられる力を...)」


「リンさん、お見事です!」


「ニッシシ。それじゃ、次はフウカの番だね」


「え?」


「ずっと後ろで見てるだけじゃつまらないでしょ?次はアタシと肩を並べて戦おうね!」


リンは笑顔で船の上にいるフウカに手を伸ばした。


「(本当、敵わないな)」


「はい!リンさんと肩を並べる様に強くなります。それまで待ってて下さい。すぐに追いつきますよ!」


「うん!楽しみだね!」


リンはニッコリと笑うのだった。

そして、ハクケンが歩んだ先の道を見つめる。


「本当、はつまらないな」


 そして、その頃レイヤ、フウカ、シャーロットの目の前にはパンダがいた。


「ねぇ、こんな事辞めて前みたいにパンダに戻って」


「...」


「パンダ!!」


 何も返答が帰ってこないパンダにクロエは怒鳴るのだった。


「レイヤ、シャロ。こいつはボクがやる。ボクの家族の事は任せて良い?」


「...無理はすんなよ」


「うん」


「シャロ、行くぞ」


「ふぇ?!え?う、うん!」


レイヤとシャーロットはパンダを通り過ぎる。

 そしてその場に取り残されたクロエとパンダは会話を続けた。


「お前が、ボク達を裏切った時どう言う気持ちだった?金で奴隷になった気分はどうなの?」


「...」


「まぁ、そうよね。お前はいつも無口なんだ。お前の考えてる事が分かんないよ」


クロエは大鎌を構えてパンダに攻撃をする。

 パンダはその攻撃を避けて、蹴りを入れるがクロエは避けて反撃で蹴りを飛ばした。


「子供の時にボクに戦い方を教えてくれたよね。ボクはこの力で家族や大切な人達に守る為にお前から教わっていると思ってた。だから、ボクが大人なったらお前と共にこの国を守ろうと思ったのに...なんで、裏切るんだよ」


「...」


クロエは悲しさのあまりに涙を流すのだ。

 だが、クロエはそれ以上に自分達を裏切ったパンダを恨んでいた。


「...申し訳ありません」


「...は?」


 パンダが言葉を発した事に、クロエは思わず鎌を止めた。あと、数ミリで当たる刃はパンダの頭に向けていたのだ。


「申し訳ありません?ふざけてるのか。ボクの家族を裏切って、その言葉だけで済むと思うか?!お前らのせいでボクの家族は酷い目に合っているんだぞ!絶対に許せない!」


「...」


「何やってるんだよ?ふざけてるのか?」


するとパンダはその場で座り込んだ。


「お嬢様が気が済むまでやって下さい。殺しても構いません。それは意味があります。せめての贖罪をさせて下さい」


「...それで許されると思うなよ。なら、望み通り殺してやる」


 クロエは地面に頭を齧りつけているパンダに目掛けて刃を向けた。


「...」


だが、その刃がパンダに当たる事はなかった。

何故ならばクロエの両腕が震えていたからだ。


「例えお前を憎くとも、殺せる訳がないだろ。だって、お前はボクにとって兄の様な存在なんだから。殺せる訳がないだろ!」


その言葉にパンダの肩は震える。

 パンダの頭のぬいぐるみの目の穴から、ポタポタと涙が流れるのであった。

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