魔力至上主義の世界で、魔力を持たない呪われた男は、呪いの力で成り上がる〜仲間達との野望を叶える為に世界を回る航海記〜

第61話 誇りを捨てろ

「トルカ。無理なら、俺がやるぞ？」

「うるせぇ！！テメェはムシラヌとやっていろ！俺はコイツを潰す！次はそこのシラヌ！そして次はお前だ！」

「なんで、俺まで入ってんだよ」

　いくら殴っても痛む素振りすら見れないドーウェムに対してトルカは体力を奪われるだけだった。タラタキはシラヌと拳を交わし、そして次の出方を伺う為一旦距離を置いて、疲れ切っているトルカを煽る。

「はぁはぁ、早くどっか行け！」

「はいよ。負けるんじゃねぇぞ」

「誰に言っている？このトルカ=オドレル様だぞ？」

「はいはい、頑張って下さい。期待してますよトルカ様様」

「様は一回で良い！！」

　そしてタラタキは先に仕掛けて、シラヌに打撃を繰り出す。それを防ぎられ反撃にパンチが飛ぶが、ギリギリに避けて横から蹴りを入れる。

「流石、拳王。その体勢からのこの蹴りの威力。凄まじぞ。素晴らしい美味だ！」

「厄介だね。今のは倒した気でいたんだけど...」

「(普通に強ぇ。これはヤベェな...こいつ、1人の為に時間を無駄にしたくない。トルカが勝ってくれて、こっちに来てくれれば...いや、笑いがアイツにはアレには勝てないか...)」

「なんとか、やるしかないな」

タラタキは拳を握り前に突き出し構えた。

　そして、トルカの方は攻撃を喰らっていないのにも関わらず、息を荒くしていたのだ。

「しんどい...」

「ふへへへ、もう終わりですか？なんかお前の痛みも慣れてきて飽きてきたよ。もう、終わりにしよう」

「？！」

　そんな巨大からどっからそんなスピードが出るのかと驚くトルカ。ドーウェムはトルカの間合いを詰めて四方からの打撃を移動しながら放つ。

「ガハッ」

「ふふ、自分のパンチは食らった事ない様だったので、味合わせました。どうです？自分のパンチは？」

「こいつ...」

俺の威力を調整して放ちやがったな。その言い方...俺のパンチより強いの出せるって言いたい訳か？！

「うぜぇ！！殺す！！」

「おおお！今まで1番強いパンチ！気もちぃ！！！」

「気持ち悪いだよ！！変な趣味を見せたくんじゃねぇ！！」

　トルカは怒りを込めた拳で、連打！連打！と放つが、ドーウェムは痛ぶる素振りどころか、気持ちよさそうにパンチを喰らう。そして、ドーウェムは大きく拳を振り上げる。

「あっちもそろそろ終わる頃だから、もうおしまいとしよう」

　そしてその振り下げた拳はトルカに直撃し、地面に叩きつけられる。その威力は地面に大きな亀裂が入るのだった。

「はい、終わり」

ドーウェムは自分の拳にキスをした。

意識が薄れていくトルカは、悔しさが込み上げる。

「(...また、負けたのか。俺は最強なのに、何故負けたんだ？意味が分からねぇ)」

「なんでだよ...」

「え？？今なんか喋った？」

「(俺は最強！！負ける訳がねぇ！なんで、俺が羽虫の様に地べたに這いつくばっている！)」

　そして、トルカは作戦を実行する前にレイヤとの会話が頭によぎる。

「おい、クソ羽虫！」

「あ？なんだよ？お前と喧嘩している時間はねぇぞ？今あっちが治療とやら体力を消耗している時が狙い所なんだ。邪魔するな」

「時間は使わせねぇ。お前、絶対に負けるなよ。俺以外の奴に負けるなよ。俺に殺されるまで死んだら、殺す」

「死んでるんだから、どうやって殺すんだよ...まぁ、分かったよ。てか、はなから負ける気はねぇし」

そしてレイヤは船から降りて手を振った。

　何かを言うためにレイヤは足を止めて、トルカに振り返るのだった。

「ならよ。そこまで言うなら、俺を殺すまでお前は負けないよな？」

「あ？俺を誰だと思っている？この世で最強の男だぞ」

「...そうか。頑張れよ...それと、本当に俺を殺したかったら、誇りを捨てろ。それは強くなれる原動力でもあるが邪念だ。いつか限界がくる」

「あ？どう言う意味だ？」

「それは自分で考えろ」

そしてレイヤはクロエとシャーロットと共に城に向かって行った。『誇りを捨てろ』その言葉を考える。

「なんでだろうな。俺は最強なのに...」

「あ？まだやるのか？もう、俺に勝てないぞ？お前はクソ弱いから」

トルカは立ち上がる。

　ドーウェムはトルカを地面に向かって叩き殴る。だが、それでも立ち上がる。

「俺は最強なのになんで負けてるんだ？」

「そんなのお前が弱いからだ」

そして腹を殴るが、トルカは倒れる事はなかった。

「俺が最強だからこそ、自分自身を誇りだと思っている。でも、なんで負ける？負けるのが最強なのか？」

「(いったい...)」

「最強ってなんなんだ？最強なのに、なんで負けるんだ？」

「さっきから意味の分からない事を...」

　ドーウェムは少しばかりトルカに対して不気味さを覚える。トルカの画面に向かって拳を振り下げる。だが、トルカは引く事はなかった。

「(最強ってなんだ？俺は一体なんなんだ？)」

「もう、うっとしい。今からシラヌさんの所に行くのに」

「おい、俺って本当に最強なのか？」

「だから、気持ち悪いだよ！お前は雑魚なんだよ！」

ドーウェムはトルカを持ち上げて地面に叩き落とす。

だが、トルカはゾンビの様に立ち上がる。

「勝ってこそ最強なんじゃねぇのか？」

「気持ち悪い！！」

ドーウェムはトルカを殴り飛ばす。

　トルカは、そのパンチで体がクルリと回るが、その勢いを使ってドーウェムの脇の下にパンチを入れる。

「あ？」

「面白いよな...俺はケンカで一度も負けた事ないのに...クソ親父にも才能に恵まれているって言われたのに...その全ての誇りが...たった1人の男によって崩された...こんな弱い俺が最強なのか？」

「もう、いい加減にしろ！」

　そして、再びドーウェムはトルカにパンチを喰らわせるが、トルカは反撃でドーウェムの顔面にパンチを飛ばす。

「気もちぃか？誇りのないパンチは？」

「(そうか...最強の答えは...とっくに教えてくれてたんだ...)」

「捨てる...」

「ガハッ！」

トルカはドーウェムの顎に目掛けてアッパーを飛ばす。

「誇りを捨てりゃ良いんだ」

「(最強の誇りを...)」

　ドーウェムは格下だと思っていた相手に、恐怖を覚えてしまった。あんなに気持ちの良いトルカのパンチが一個一個不気味さと痛みを覚え始める。

「勝つためなら誇りを捨てる」

「お、お前は、な、なんなんだよ」

「俺か？俺は...負け犬トルカだ」

トルカはドーウェムに向かって強い打撃を放った。

ドーウェムはその衝撃に耐えきれず気絶をしたのだ。

「これが痛みか？！これが疲労って奴か？！これが勝利か？！ああ！努力って気もちぃな！！アハハハハッ！」

「(もう、俺は負けねぇ！！レイヤを殺すまで俺は負けねぇ！！)」

「おいおい、マジかよ。ドーウェムが負けたのか」

「なんだ？タラタキの野郎。俺以外の奴に負けたのか？」

トルカの後ろでシラヌは観戦していた。

その後ろには倒れているタラタキがいた。

「俺とやるのか？」

「お前も面白そうだ。後ろにいる雑魚の様に俺を失望させるなよ」

「...おい、待てよ。喧嘩は終わってねぇだろ。勝手に話を進めてんじゃねぇ。お前の敵は俺じゃねぇのか？」

　ボロボロなタラタキは、足をフラフラと揺らしながら立ち上がるのだった。