第47話 悔し涙
「レイヤ、この手は何?」
「リン、クロエ。お前らの怒りはよく分かる。だが、堪えろ。この男の言う通り、もしお前らがこの大会をぶち壊せば、アイツの思う壺になる。それにフウカの為にならない」
「レイヤ!!こんな大会なんてどうでも良い!アタシは自分の仲間がやられる所を黙って居られないの!」
「リン!!仲間の為に決闘に挑んで、それに負け、その上に仲間の為にやった事が逆に足を引っ張ってしまった事が、どれほどの惨めな気持ちになるか考えろよ!その優しさがフウカをどれほど苦しめるか考えろ。優しさだけじゃ、仲間を救えねぇ」
「...」
リンは考える。
「で、でも!あれをほっとく訳には!」
「ほっとく?悪いが俺はこれでも怒りを抑えてるんだ。正直今でもアイツを殺したい。でも、今はダメだ」
「ふふ、そうです。レイジー選手の言う通りです。いや、レイヤですかね?」
レイジーと名乗って居た男が、仲間達にレイヤと呼ばれている事に偽名だと分かる。
「フウカの悩みはなんだ?自分が弱い事に、いつも悩まされて居ただろ?もし、俺たちが助けて、この大会をぶち壊してしまったら、どうなる?余計にフウカは自分の弱さを責めるだろう。クロエの為に頑張ってるフウカが、自分のせいで台無しになるんだぞ?」
「「...」」
レイヤの言う通り、クロエのお金の為にこの大会の賞金を狙う為に出たフウカが、自分のせいで賞金を逃してしまったら、余計に自分自身を責めてしまうだろう。レイヤはそれを分かって、殺意を抑えて居たのだ。
「おらぁ!!どうした!!」
スネイはフウカを投げ飛ばす。
そして壁に激突したフウカは動かなかった。
それを見たレイヤは審判に聞こえるぐらい声を上げる。
「審判!!戦闘不能だ!!!試合を終わらせろ!!!」
「させねぇ!!」
審判が試合を終わらせる事を宣言する前にトルカはフウカに飛び出し、顔に目掛けて力一杯蹴りを喰らわせようとする。
「?!!」
一瞬、自分の脚が消えた錯覚が見えた。
トルカは思わず全身を固まってしまう程の恐怖を味わった。
「試合終了!!」
「なんと!フウカ=ナーベの戦闘不能を確認し、この試合トルカ=オドレルの勝利!!」
試合は終了となった。
もし、トルカが攻撃を続けたら犯罪として捕まる。
「...なるほど、この殺意お前だな?」
トルカは殺意の元を視線を移動すると、そこには睨みつけるレイヤが居た。そして、レイヤは脚に雷装を纏わせて倒れるフウカに飛び込む。
「おい!!レイジーって言ったっけ?どうだった?テメェの愛しい女がボコされる姿をよぉ!!悔しいか??今テメェのやっても構わねぇんだぞ!!」
「...本当、トルカは」
煽るトルカにスネイは呆れて居た。
「フウカ...良く頑張った。ごめんな、すぐに治療室に運ぶから」
フウカの背中とひざ裏に腕を回して、相手を引き寄せながら抱き上げる。
「おい!!!レイジー!!今どう言う気持ちだぁ?!!俺を恥をかかせた事を後悔しろぉ!次はお前だぁ!レイジィー!!!」
「...」
「おい!俺を無視するなぁ!」
トルカは無視をするレイヤを蹴飛ばそうとした、だがそれは残像の様にレイヤの姿が消える。そして、レイヤはトルカの背後に居た。
「まぁ、そう焦るなって。どうせ、次の試合は俺とやるんだろ?その時まで我慢しろ、お互いにな...フウカを侮辱した事はキッチリと返させて貰うぞ」
「フッハハハ!!良いねぇ!その殺意!テメェとの喧嘩、本当に待ち遠しい。早く殺したい」
レイヤは闘技場を離れて治療室に運ぶ。
「大丈夫ですか!すぐに治療致します。そちらのベッドまでに運んで下さい」
「いや、良い。こいつの治療は俺がやる」
「ですが!この大怪我は...わかりました」
レイヤの威圧に治療室の先生は、レイヤを従う事にした。
そしてレイヤはフウカをベッドの上まで運び、いつも腰にあるポーチからガラス瓶を取り出す。
「どうせ効かないのに、サクヤからいつも待たされる薬をやっとここで使えるんだな。本当、サクヤに感謝しねぇと」
レイヤはガラス瓶のコルクを外し、中の赤い液体を飲ませる。
すると、顔の怪我がみるみると完治する。
「レイヤ!フウカは大丈夫?!」
駆けつけてくるリンとクロエ。
心配そうにフウカの容態を確認する。だが、そこは傷一つもないフウカの姿だった。
「んん?」
そしてフウカは目を覚まし、起き上がるのだ。
周りを見渡して、自分が負けたと分かる。
「そうですか...私、負けたのですね。ごめんね、クロエ」
「もう、そんな事は良い。なんで、すぐに辞退しなかったの?あの時辞退してれば、あんな痛い思いしなかったのに...」
フウカが負け宣言を放てば、試合は中断できたのにも関わらず、フウカは最後までトルカの攻撃を耐え切って居た。
「レイヤさんを馬鹿にする人に負けたくありませんでした。ごめんなさい、ごめんなさい」
フウカはポロポロと涙を流す。
「迷惑かけてすみません。私の様な才能がない人が、大会に出るなんて出過ぎた真似してしまいごめんなさい。私のせいで、レイヤさん達の顔に泥を塗りごめんなさい。私はレイヤさんを侮辱した、あの男を倒し、レイヤさん達と共に夢を叶えられる人間だと証明したかったです。やはり、私は相応しくありませんね。このままレイヤさん達と旅をしていたら、また迷惑をかけてしまいそうです。だから、私はここで...」
「迷惑?そんなの何が悪いんだ?何故俺達に迷惑をかけるから嫌なんだ?そんなのどうでも良い!仲間に迷惑をかけちゃダメなのか?!1番ダメなのは、迷惑をかけて逃げる事だろ!俺が知ってるフウカは逃げる女じゃねぇ!迷惑をかけた分以上に努力して成長する諦めの悪い女だ!!良いんだよ、俺らに迷惑をかけて、俺もフウカに迷惑をかけるかもしれない。それが仲間なんじゃねぇのか?戦いに負けるよりも迷惑をかけたから逃げる方が、クソ迷惑だ[
フウカは自分の弱さを責めて、この旅から降りようとしていた。
これ以上自分を責めない様に、レイヤはフウカを抱きしめて止める。
そしてリンはフウカの頭を撫でる。
「フウカ、今何を言おうとしたかは知らないし知りたくもない。もし、自分のせいでアタシ達から離れる事を言うなら止めはしない。だけどね、ここでフウカとの旅を終わらせたくない。アタシ達はフウカの料理じゃないのダメっぽいんだよ。レイヤもクロエも同じ気持ちなんだよ」
そしてクロエは黙ってフウカの手を握る。
レイヤは指でフウカの涙を拭いた。
「明日の試合、必ず勝つ。だから、応援してくれないか?俺はフウカの応援が欲しい!負けて泣く事は恥ずかしい事じゃない。涙を流した分強くなれば良いんだよ」
「...はい!うぅ、うわぁぁあ!」
フウカは仲間を馬鹿にされた相手に負けて、悔し泣きをするのだった。
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