第44話 死ぬ覚悟

「我の考えと相反するモノか...死ぬ覚悟。ふむ、実に面白いじゃないか!ただ好奇心でこの拳王大会に出ていたが、今大会は実に面白いじゃないか!フハハハ!」


ガルドーザは高笑いするのであった。


「何故武を極めるのはこんなに楽しいのだ?!もう、この世に我と対等に殴り合う相手がいないと思っていたが、どうやら我の思い違いだった。やはり世界は広い!我に傷を与えた者、相対する覚悟を我に納得させた者!汝の名前を聞きたい」


「フウカ=ナーベです」


「フウカ=ナーベ...ふむ、フウカよ。お主は死ぬ覚悟を持って勝つと言ったな?」


「はい」


「なら、その覚悟とやらを我に見せてみろ!この我に一式を放つが良い!」


「い、一式ですか?!」


フウカは大きく驚く。

 それはそうだった。不殺の流派とまで呼ばれている天武琉古武道術の中で超強力な技。その強力な技は、不殺の為に作られた流派にも関わらず相手を殺してしまう程の威力。一式から三式はあまりにも強力な技の為に魔獣にしか放ってはいいけない掟があるのだ。


「安心するが良い。今の汝の攻撃では我を殺す事はできぬ」


「...で、ですが」


「案ずるな!我は丈夫で出来ている!」


「まぁ、私の腕じゃ大した威力は出せません。それにレイヤさんの攻撃だって簡単に受け止めていました」


「レイヤ?はて、そいつは誰だ?」


「あっ!いえ、こちらの話です。威力はありませんが、痛いと思います。覚悟はして下さい」


フウカはガルドーザに歩み、拳をガルドーザの体に向ける。


「(やはり、分かっていましたがこの人には勝てません。この攻撃を放ったら辞退しましょう。クロエさんには申し訳ありませんが...ですが、要らない心配ですがレイヤさんの為にも少しでもこの人を負傷を与えさせて貰います。私の攻撃をわざと受けてくれる、このチャンスを活かし)」


「天武強式・羅生門」


 フウカの髪の毛先が赤く染まる。

フウカは深く深呼吸する。

 そして拳を握る力を少し和らげる。


「天武一式・羅生ノ渦らせんのうず!!」


腕を捻るように打撃を放った。まさにそれは渦を巻く竜巻だった。

この攻撃は外部攻撃と内部攻撃を同時に行う強力な技。


「マジですか...無傷」


「ふむ、悪くない攻撃。本人自体の実力も伸び代がある。今後修行を育むといい」


「はい...ありがとうございます」


 フウカは完全に完敗だった。レイヤやクロエには申し訳ない気持ちが一杯だったが、死ぬ気で努力し勝つと言った側から辞退しようとする。


これじゃ、まだ私はお荷物ですね。もっと強くならなければ...


「私は辞た...」


「我はこの試合を放棄する!審判よ!この試合はこの小娘の勝ちとしてくれ!」


「え?!い、良いのですか?!」


 前回と前々回の大会で全ての試合をワンパンで倒した2連覇チャンピョンが、この試合優勢にも関わらず辞退すると言った事に審判は困惑していた。フウカも負けたと思っていたのに、いきなり辞退した事に驚いていた。


「な、何故ですか!勝っているのは貴方なのですよ!」


「ふむ、我の我儘を付き合ってくれたお礼だ。それに、我はもう年寄りだからな。本来この大会は君たちの様な若者が楽しむのだ。年寄りの我は不必要だ。我はここで謹んで終わらせて貰う。我は十分に楽しんだ。あとは若者達で楽しむのだ」


審判は司会者に合図を取った。


「な、なんと!!ガルドーザ選手がこの試合を辞退した事によって、フウカ戦士の勝利!!」


勝者が確定して納得いかない観客がいたが、試合は幕を閉じた。

両社控え室に戻る。その時フウカはある違和感を覚えていた。


「(一式は人間相手にならお師匠様にだけ使った事がありますが、今回何故かガルドーザさんに放った時、お師匠様と違った手応えでした。この手応え...まるで、魔獣)」


 そしてフウカはレイヤ達と合流する。レイヤは立ち上がりフウカとハイタッチするのであった。


「ナイスファイト。これで俺達2人は2回戦突入だ」


「まぁ、私自身は何も出来ませんでしたけど。ガルドーザさんが辞退してくれただけです。本来なら負けた試合なので、本当に運が良かっただけですよ」


「いや、それでも今の試合でフウカの顔つきが変わったよ。何か変わるきっかけでもあったのか?」


「うーん、どうでしょう?」


そして次の試合はトルカ対ムメン。

ムメンは白いズボンにタイツを着ていた。

 ムメンはトルカを気に食わなかった、何故なら試合でも関わらず酒をクビクビと飲んでいたからだ。


「それでは!連拳のムメンVSバーサス飲んだくれのトルカ=オドレル!試合開始!」


 開始したと同時にムメンは速いスピードで詰めて、酒を飲んでいるトルカの顔に目掛けて拳を放つ。持っていた瓶ごの破られたが、直撃した顔にはダメージは通らなかった。


「あ?もうはじめて良いのか?」


「武を舐めているのしか思えない。その舐めた根性を叩き直してやる!」


ムメンは次々と連続パンチを放った。

だが、トルカは防ごうともせず棒立ちのままだった。


「羽虫が、うっとしいんだよ」


トルカは大きく拳を横に振った。

ムメンはそれを軽く避けるのであった。


「そんな、遅い攻撃では当たらないぞ」


「(なんだ、こいつは...トップ4と聞いたからすごい実力と思ったが、動きがまるで素人だ)」


「なっ?!」


避けたと思った攻撃は、腕を横に振っただけですごい衝撃派が放たれていた。よし、避けようとせずに防御をしていたら危なかった。

 

「だが、当たらなければ意味がない!」


トルカはやる気がないのか攻撃力があっても、スピードが遅くムメンに当たる事はない。ムメンは避けながらトルカに倒れるまで連続パンチを喰らわせる。


「(...なんだ、こいつは?)」


連打!連打!連打!と決して一撃一撃は決して軽い訳でもないのにも関わらず、トルカは倒れる事はなかった。


「(本当に人間か?こいつの防御力はどうなってるんだ?次元が違いすぎる!)」


「なんか、つまんないな。もう、良いや...俺の攻撃を避けるなら、避けさせなければ良いんだ」


「何をする!」


トルカは地面に右手の指をぶっさし、そのままムメンが立っている地面を持ち上げて上に投げ込んだ。そして宙にいるムメンは足場がなく、トルカの飛んでくる拳を避ける事ができなかった。


「っ!」


メキメキと顔に殴られるムメンは吹き飛び、そのまま気絶してしまった。


「すごい!い、一撃KO!!やはり強い!勝者!!!トルカ=オドレル!!!」


「羽虫は地面に倒れているのがお似合いなんだよ」

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