第43話 殺す覚悟
そして、次の試合はアジュ=プルペン対セイドトの試合が始まる。これまでの戦いが迫力があった為、確かにアツい戦いではあったが、前の試合と比べると物足りない。
「うおおお!!」
ほぼ互角の戦いにアジュ=プルペンが勝利するのであった。そして、次の試合はレイジーことレイヤ対タットパム。目の前に立っていたのはゴーグルを付けている、身長が250cm以上もあるデブの拳闘士。
「フッヘッヘッ!オレの相手がこんな小さい奴とは運が良いなぁ!」
「デカイな。よくここまで育ったな」
「それでは次の試合は、白髪仮面レイジー
レイヤはタットパムのデカさを驚き見上げていた。
タットパムは大振りに腕を薙ぎ払う。
「うおっ」
腕を薙ぎ払うだけで風圧が飛んだ。
レイヤは避けてタットパムの腹に目掛けて打撃を放つ。脂肪の中に埋もれたレイヤの拳を見てタットパムはニヤリと笑った。
「オレの脂肪はハンマーでさえも防ぐぞ」
「なら、脂肪の少ない顔を殴れば良い」
レイヤはタットパムは顔のてっぺんに飛び乗り、そのまま足を上げて蹴り下げた。タットパムは地面に叩きつけられる。
「オレの頭を蹴りやがって!いてぇ!」
「悪いな。あんまり体力は消費したくないんだ。すぐに終わる戦いを終わらせる」
レイヤはタットパムの胸の部分に馬乗りになり、レイヤは両手を握り上げる。
「ゴフッ!アフっ!あっ!いうっ!ごほっ!バフッ!フヒッ!いでぇっ!すとっ!やめっ!」
レイヤはタットパムの顔に目掛けてタコ殴りをする。
返り血を浴びようが止める事はなかった。
「す、ストップ!!相手は戦闘不能です!レイジー選手を拳を抑え下さい!」
審判か慌てた様子でレイヤを止める。
レイヤはハッとなり拳を止めたのだ。目の前には顔がボコボコに膨らんでいる気絶したタットパムだった。
クソ...昨日リンとあの話したから、あの出来事をずっと考えちまった...
「悪い。俺の八つ当たりをぶつけちまって...」
「た、タットパムの戦闘不能と見做し勝者レイジー選手!!」
タットパムを瞬殺した事で会場中驚きを隠さなかった。
「一応タットパムは前回の大会でベスト6を取った選手ですよ。まさか、あの時に出会った仮面の男、そこまでの実力とは...ガルドーザの一撃を受け止めたのも頷けます」
スイリューも純粋に驚いていた。
そして次の試合はフウカ対ガルドーザ。今大会で初出場した女のフウカと前回優勝したガルドーザの期待値は比べものにならなかった。観客の殆どはガルドーザが勝つと確信していた。
「ふむ、我の相手は女か。少しやりずらいな」
「女だからって痛い目みますよ?」
「安心するが良い。我はどんな相手でも舐める事はせん。それは武人として失礼極まりなない行為だ」
両者拳を構える。
「それでは、女戦士フウカ=ナーベ
開始と同時にガルドーザはフウカの間合いを詰めて、出方を調べる為に軽めの蹴りを放った。フウカはそれをギリギリに避けるのであった。
「ふむ、素晴らしい反応だ。並の拳闘士なら今の攻撃でノックアウトだ」
「分析は終わりました?次は私から行きますよ?天武七式・
フウカは天高く飛び、落ちる重力を活かし上から踵落としをする。
ガルドーザは両腕をバッテンにして防ぐが衝撃波で、ガルドーザが立っている地面に大きな亀裂が入る。
「うむ、素晴らしい一撃だ。お主は天武琉古武道術を我が身に出来ている。威力も申し分ない」
「天武琉古武道術を知っているのですか?」
「当然だ。天武琉古武道術は拳闘士にとって完成された流派。スピード面、耐久面、破壊力面全てにおいてバランスが良い。応用が効く素晴らしい流派。少し残念な所を言うと、一式から三式以外の技は不殺な技の所。殺し合う面に対しては少々残念がある」
「私は料理人として、私の手を汚したくありません。私は大切な仲間と私を守る為にこの流派を取得した身。人を殺す為に力を身につけたわけじゃありません。守る為に力をつけたのです」
「守る為か...なら、尚更だ。我は料理人ではないから、よくは分からない。だが、大切な何かを守りたければ、相手を殺す覚悟で行け。倒すだけじゃ相手はやられない。殺すんだ」
ガルドーザは呆れた表情でフウカに指を指した。
「殺す?やはり、私にはそれは出来ません。そんか汚れた手で大切な人達に美味しく料理を振るえる事は出来なくなります」
「ふむ、それは残念だ。汝には才能がある様に見えたがな。まぁ、良い!なら、この我が引き出してみせよう!
「え?」
まさに、それは先程フウカがやった攻撃と同じだった。
ガルドーザは天高く脚を振り上げて、力一杯に地面に向かってぶら下げるのであった。フウカと比べ物にならないぐらい、闘技場が亀裂によって半壊したのだ。
「これが、真の姿だ。汝が使う天武琉古武道術を殺しを特化させた流派、
「それがどうしました?説教は終わりました?なら、忠告ありがとうございます。でも、やはり私は人を殺す事は出来ません。綺麗事を言っている事は重々承知しております。ですが、私の夢の為、仲間の夢の為には殺すのは避けたい」
「そうか。まぁ、精々その気持ちで頑張るのだな」
ガルドーザは残念そうな表情を浮かべて、フウカを倒そうと構える。
だが、フウカの会話は終わっていなかった。
「ですが、貴方の蹴り技を見て勉強になりました。確かにあなたの言う通り殺す覚悟で行かなければいかないかもしれません。勝つ方法としてはそれが最もな覚悟」
「そうだ。相手に勝ちたければ、殺す覚悟が必要だ」
尊敬するレイヤだって、もしかしたらリンやクロエだってその気持ちかもしれない。だがフウカは戦士ではなく料理人、そんな気持ちは不必要だった。
「やっぱり、私には出来ません」
フウカはレイヤ達が美味しく食べる姿を思い出す。
そして、優しく微笑むフウカは拳を構える。
「...貴方の様な強大な敵に勝つ為には殺す覚悟...違う!努力して努力して!死ぬ覚悟で努力をする!私は死ぬ気の努力で貴方に勝ちます!まぁ、私の夢の為には本当に死ぬ訳には行きませんがね」
フウカの覚悟を聞いたガルドーザはニヤリと笑うのだった。
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