第4話
翌日の早朝にリリア達は宿を出て、昼前には港に着いた。
船が出航するまで少し時間があったので、荷物を先に船に積み、リリアたちは港近くの市場を見て回ることになった。
「見て、ミリアさん! 港の市場はローズ村とはまた違って、すごい活気ね!」
「そうですね。港は漁業が盛んなので、早朝には競りなどが行われていて、もっと賑わうのですよ」
「この時間でこんなに人々で賑わっているのに、早朝はもっと賑わっているなんて、想像できない……。いつか見てみたいな」
まだ見ぬ未知の世界に想いを馳せつつ、次々と出店の商品に目移りしてしまう。
市場では、威勢のいい声がそこかしこで響き渡っていて、リリアはワクワクしながら歩みを進める。
「リリア様、あまり離れて行動しない方が良いかと」
「ええ、分かってるわ。ちょっと見るだけ」
敵が近くにいるかもしれないとミリアはいつもより神経質になっていた。頭ではレイウェンたちから離れない方が良いと分かってはいるものの、見るもの全てが目新しく、つい目を奪われる。気がつけば、市場の奥の方まで来てしまっていた。
「リリア様! お待ちください」
ミリアの呼び止める声が遠くで聞こえた気がした。港の近くなので、波の音や賑わう人々の声にかき消されてしまう。
出店はざっと見たところ、この国の魚や他の国から入手した布、アクセサリー、食べ物などが多く並べてあった。その中でも珍しい花を置いている店があり、リリアは吸い寄せられるように入っていく。
様々な種類の花が無造作に置いてある中、迷わず気になった花を手に取る。それは、綺麗に澄んだ青色をしていて、寒い国で数十年に一度咲くと言われている幻の花だった。前にミリアが「一度でいいから、見てみたい」と言っていたことを思い出す。
「お! お嬢さん、お目が高いねぇ」
店の奥から、エプロンを腰に巻き付け、右手に包帯を巻いた若い男性が声をかけてきた。
「あの、これ……。どこで手に入るものなのですか?」
「それは、珍しい花でねぇ。商売柄そういう話は、秘密なんだよねぇ」
ゆっくりとした厭らしい話し方をする男性が不意に近づいてきて、リリアに触れた。包帯が巻いてある右手が触れた瞬間、いきなり細長い紙が現れて、両手をきつく縛られる。
「えっ……!?」
予期せぬ事態に身の危険を感じて、リリアは慌てて店の外に出ようとして、愕然とする。いつの間にか、通りを行き交う人が一人もいなくなっていた。それどころか、ミリアやたくさん並んでいたお店も見当たらない。まるで、今までの光景が幻だったかのように何もなく、しんと静まり返っている。よく見れば、だんだんと周囲が暗くなり始めていた。
「ミリアさん! レイウェン様!!」
何度も名前を呼ぶが辺りは静かなままで、人の気配すら感じられない。振り返れば、男性が薄気味悪い笑みを浮かべている。
「結界を張っているから、声を出しても誰にも聞こえないよ。今、ここでは俺と君の二人きりだ」
背筋が凍った。一人で勝手に行動したことを遅まきながら、リリアは後悔し始める。
レイウェンたちから離れてはいけなかった。昼間で人が多いこともあって油断した。
どうにか震える足に力を入れて、座り込まないように踏ん張りながら気丈にリリアは男を睨みつける。
「あなたは一体、何者? ダンとかいう人の手下なの?」
彼はにやにや笑ったまま、再び空中で包帯が巻かれている手首を回したかと思えば、リリアの手に巻き付いていた紙が解けた。そのまま、今度は体を縛り付ける。引きちぎろうともがいても、きつく縛り付けられていてびくともしない。
どうやら、彼は触れなくても自由自在に紙を操れるようだ。
「もしかして、あなたは」
少し前に、ローズ村で会った男のことを思い出す。あの時も彼は、今と同じように薄気味悪い笑みを浮かべて、こっちを見ていた。確か、手に包帯を巻いていた。当時のことを思い出して、リリアはぞくりとする。
「あの時の……?」
「やっと気付いたぁ? 俺は、紙使いのペータさ。久しぶりだねぇ」
ぺータは嬉しそうに紙でリリアの顎をなぞる。あまりの気持ち悪さにリリアは吐き気を覚えた。
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