第8話
リリアは、少し記憶を取り戻したようだった。
「小さい頃、レイウェン様たちやユエたちとよく一緒に遊んでいたんですね。そんな記憶が、ぼんやりと頭の中で浮かび上がりました」
ユエが嬉しそうに彼女を大きな光の羽で包み込む。リリアも懐かしそうに頬を寄せた。
ふと近くですすり泣き声が聞こえ、声の方へ皆が注目する。部屋の隅に立ったまま、ミリアが静かに泣いていた。
「ミリアさん?」
「も。申し訳ございません。つい、この光景が懐かしくて、うるっときてしまい」
エドワードが胸元からハンカチを取り出し、そっと差し出す。礼を言って受け取り、ミリアは目頭を押さえた。
「昔もよくこうして皆様が集まって、楽しそうにしていたのですよ、リリア様。少しでも記憶が戻って、本当に良かったです」
「でも、まだ全然。ユエやハク、カルと他の龍たちのことは思い出せたけど……」
≪まだ、私の力が制御されているので、完全に思い出せた訳ではないかと≫
ユエがリリアの言葉を補足する。彼女は、申し訳なさそうにレイウェンたちを見上げた。
「そうか。別に焦らなくていいさ。ユエやハクたちのことだけでも思い出せて、よかった」
レイウェンは彼女を安心させようと優しく微笑む。リリアはほっとしたようで、微笑み返してくれた。
少し恥じらいの混じる微笑みに、レイウェンは愛おしさが増していく。抱きしめたい衝動に駆られて、リリアを抱きしめようとしたところで、エドワードの邪魔が入った。
「それで、今回のことをどう思う? レイウェン」
「――――お前」
「うん? 何か問題でも? あ、もしかしてリリアのことを抱きしめようとしていたとか?」
わざとらしくエドワードが茶化す。腹を立てつつも、レイウェンは反撃をした。
「そういえば、さっきの襲撃の時に、お前の愛しの奥方がいたぞ」
「はあ!? キャメロンがこの国に来ているのかよ!」
「キャメロン様というと、エドワード様とご結婚されたというドゥンケル族の?」
会話を聞いていたミリアが顔をしかめた。エドワードがドゥンケル族のキャメロンと結婚していることは、耳に入っていたようだった。
「そうです。夫婦仲が悪いせいで、ドゥンケル族への内通者に気づかなかったんじゃないか? リリアの情報が漏れていたのは、お前の失態だな」
「くっ」
痛い所を衝かれたのか、エドワードは言葉に詰まり、悔しそうに歯を食いしばった。
「キャメロン様もリリア様に攻撃を?」
ミリアは不安そうにレイウェンを見た。彼女を安心させるために、首を横に振る。
「いいえ。リリアに直接、危害を加えることはなかったです」
「そうですか。でも、それだけでは安心できないですね……。今後もリリア様を襲ってくる可能性はありますよね?」
「それは、否めないです」
レイウェンの言葉に、ミリアは小さくため息をついた。
「あの……。ダンという方は、どういう人物なんですか?」
ミリアが何か言いかけようとするのを遮るように、リリアが口を開いた。
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