第6話

 レイウェンがふと視線を窓の方へ向けると、ドーム型をした温室が目に入った。一瞬だけ、中央部分が光り輝いたように見えた。

「村長、あそこは?」

「ああ、あそこは娘が花を育てている温室です」

「少し、見に行ってもよろしいですか?」

「え、ええ。構いませんが」

「村長も少し考える時間が必要かと思いますので、席を外させていただきます」

 立ち上がる際にエドワードにそっと耳打ちする。

「お前はここに残って、村長が妙な動きをしないか見張っとけ」

「はいはい、仰せのままに」

 肩をすくめて、エドワードはメイドに紅茶のおかわりを頼んだ。

 レイウェンは村長に温室までの行き方を聞き、部屋を後にする。

 正面玄関から回り込むと、庭は思ったより広く、隅々まで手入れが行き届いていた。

 温室に近づくにつれ、花の香りがどんどん強まる。香りを堪能しながら温室内を進んで行くと、いつの間にか開けた場所にたどり着き、目を見開いた。

 中央にあるベンチで気持ち良そうに眠っている女性がいたのだ。

 しかも彼女の周りに取り巻く空気だけ、他の空気とは異なっていた。そこだけ、柔らかい光に包まれているかのようである。

 直感的に自分の探し求めていた人だと思った。

 すると突然、昔の記憶が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。

 あれは、確かルーナ国が襲撃される五日ほど前だ。

 彼女は庭にいると執事に聞いて探しに行った時に、今と全く同じ光景を見た。

 レイウェンは足音を立てないようにそっと歩み寄り、顔を覗き込む。

「ん……」

 気配に気づいたのか、女性がゆっくりと目を開け、ぼんやりとレイウェンを見つめる。

 じっと見つめ返していたら、突如頬に思わぬ衝撃を感じた。

「きゃあああああ」

「え、いや、ま、待て! 落ち着いてくれ」

 再び振りかざされていた女性の手首を握り、動きを封じつつ視線を合わせる。

「驚かせてすまない。決して、怪しい者ではない。私は、モルガン・ドゥ・レイウェンと言う」

「へっ……?」

 女性は驚いたように目を見開き、まじまじと彼を見つめた。

 すぐに状況を理解したのか、顔を赤らめて手の力を緩める。

 もう殴られないだろうと思い、レイウェンも手を離した。

 すると、彼女の手が叩かれた頬に添えられたと思いきや、さっきまで感じていた痛みがすうっと消えた。

「君は……」

 今度は、レイウェンがまじまじと彼女を見つめる。

「い、いきなり頬を叩いてしまい、申し訳ございません!」

「いや、驚かせた僕が悪かった。けど君は今、僕の頬になにを……?」

「あ! えっと……。傷を癒したと言いますか……」

 顔を赤くしたまま、彼女は俯き、小声で囁く。

「実は私、生まれつき、傷を癒す力があるんです。変……ですよね。申し訳ございませんでした、本当に」

「いや、素敵な力だと思うよ。傷だけでなく、心まで癒されそうだ」

「そ、そんなことは」

「君の名前を教えてくれないか」

 レイウェンはそっと彼女の顎に指を添え、顔を上に向けさせた。

 彼女の瞳は、全てを見透かしそうな綺麗な澄んだだった。

「私は、リリア·と申します」

「リリア。――――やっと見つけた」

 親しみを込めた笑みを浮かべると彼女は、目を見開きながらも耳まで真っ赤になる。

 その反応が昔と変わっておらず、懐かしい思いが込み上げてきた。

 そのまま互いに目が逸らせず、見つめ合っていたら彼女の名前を呼ぶ声がした。



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