光陰分かつ天満月と六神龍〜月夜に輝く少女は何を想ふ〜

玉瀬 羽依

第一章 十三年越しの探し人

第1話

 最近、同じ夢をよく見る。

 部屋の明かりで豪華な装飾がきらきらと輝いている中、自分一人、ぽつんと佇んでいるのだ。

 ――――いや、正確には一人ではない、と思う。

 誰かに守られているような温かさを肌で感じる。でも、姿は見えない。ぼんやりと長い髪の女性が一瞬だけ光の中で見えた気がするが、瞬きをした次の瞬間にはただ辺りが眩しく輝いているだけだった。

 一体、ここはどこなのか。

 思い出そうとすると必ず、頭がズキズキと痛み出して、目を覚ます。

「……また、あの夢」

 背中がじわりと汗ばんでいて、思わず顔をしかめてしまう。

「リリア様? 起きていますか?」

 静かに部屋の扉が叩かれ、一緒に暮らしているミリア・アルバードが顔を覗かせる。

「ミリアさん、おはよう。今、起きたところ」

「大丈夫ですか? 顔色が悪いようですが……」

「ううん、大丈夫よ。いつも通り」

 心配をかけまいと、夢のことは言わずに微笑む。

 実は、ミリアは元々リリアの専属女執事だったらしい。

 らしい、というのもリリアには、その頃の記憶が全くない。

 幼い頃にリリアの家が火事になり、両親を同時に亡くしてから、ミリアが代わりに育ててくれているのだ。

 医者が言うには、火事のショックで思い出せなくなっているのではないかということだった。

 だけど、記憶がなくてもミリアと二人で何不自由なく、楽しく暮らせている。

 惜しみなく愛情を注いでくれるミリアが傍にいてくれて、リリアはこれ以上ないぐらい幸せだ。

「そういえば、リリア様。後で村長様にお花を届けていただけますか?」

「えっ、もう一か月経つ?」

「はい。もうすっかり春らしい気候ですね」

「早いものね。あっという間に夏がやって来そう」

 寝間着を脱ぎ始めると、すかさずミリアが着替えを手伝ってくれる。執事だった頃の癖らしい。

 最初は「自分でできる」とリリアも断っていたが、今ではそれが自然になってしまって、全てを彼女に任せている。

「今月のお花は、何にしたの?」

「ローズ様がお好きなシャクヤクとデルフィニウムにしました」

「わぁ、素敵ね! ローズもきっと喜ぶわ」

 自分が花をもらったかのように、リリアは嬉しい気持ちになる。

 ミリアは趣味で花を育てていて、今では店を構えている。どの花も世界一きれいで可愛く品があるのだ。

 数年前、通りがかりにその花を気に入って、「店を始めてみないか」と融資してくれたのが、今リリアたちが住んでいるローズ村の村長だった。それ以来、毎月季節の花をお礼の意も込めて村長の家に届けている。

 そのローズ村の村長には、リリアと年の近い、ローズ・エルメスという一人娘がいる。

 庭に自分用の花園を造ってしまうぐらい、ローズもまた花を育てるのが好きで、よく店にも顔を出す。

 ローズの方が年上だが、リリアと気が合い、よく遊びに行ったり互いの家に泊まったりしている仲だ。

「村長さんの家に行くついでに、ローズとお茶して来ていい?」

「もちろんです。お天気も良いですし、庭園でピクニックなどいかがですか?」

「いい案ね! お花の紅茶とサンドイッチを持っていこうかしら」

 ミリアが用意しておいてくれた朝ごはんを食べながら、リリアはもうお昼のことを考える。

 このところ、天気がぐずついていておまけに嫌な夢も見ていたから、久しぶりのお天気につい浮かれてしまう。

 リリアはご飯を食べてすぐに出かける支度をし、ミリアから花を受け取る。

「今日はご予約のお客様がお店にいらっしゃるので、一緒に村長様のところへ行けず申し訳ございません」

「いいの、いいの。すぐそこだし」

 村長の家は、ここから歩いて十五分程の距離にある。

 にっこりと笑いかけるとミリアも口元を緩め、僅かに微笑んだ。

「ローズ様にも宜しくお伝えくださいね」

 ミリアの言葉に大きくうなずき、リリアは歩き始めた。





 

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