第6話 杖が売れる

 そうしてリンドは森の家で魔法や武術の訓練をし身体を鍛えていった。森の中でランクCを討伐した際に手に入れた魔石は貯めておいて、ランクCになってから2ヶ月が過ぎた頃にミディーノのギルドに顔を出した。 そしてそこでランクCのクエストである


『ランクCの魔獣討伐。種族制限無し。魔石を以て討伐とする』


 というクエスト用紙を取るとそのままカウンターに出向いて、


「このクエストだけど。今手持ちのランクCの魔石についても有効になるのかな?」


 この日受付にいたのはマリー。リンドの質問に首を縦に振り、


「大丈夫ですよ」


「じゃあこれを頼む」


 と袋いっぱいに詰まっている魔石を袋ごとマリーに手渡す。その袋の中身をみてびっくりするマリー。


「これ全部ランクCの魔石?」


「そう、まだ家にあるよ。袋に入れられるだけ持ってきた」


 そう言うと他の職員と二人でカウンター奥のテーブルで魔石の鑑定と数を数え、


「全部ランクCですね。数は65個あります。相当狩ったのね」


 びっくりされ、そして魔石代として金貨3枚と銀貨を貰う。生まれて初めて見る金貨。これが金貨かと思ってじっと見ているとマリーが、


「ランクC以上の魔石は20個で金貨1枚ね。ランクBの魔石だともっと高く買い取れますよ」


「なるほど。頑張るよ」


 ギルドを出ると肩に乗っている黒猫のミーが装備と日用品を買おうというのでそのまま市内の防具屋に顔を出して防御力が少し上がるローブとズボンを購入した。そして金を払った後で、


「魔力が上がるローブとかもあるのかな?」


 店員に聞くと、ありますよと奥からローブとズボンを持ってきて


「ローブが金貨5枚、ズボンは金貨4枚ですね」


 店員の言った値段にびっくりして、慌てて


「高いんだな。お金を貯めてからくるよ」


 店を出て少し歩くと通りから伸びている路地を入ったところに武器屋の看板が出ているを見つけたリンド。肩のミーにちょっと見ていくよと声をかけて店の中に入るとお客はいなくて奥で店主らしい男が一人で手持ち無沙汰に座っている。リンドが店に入るといらっしゃいと言いながら奥から近づいてきた店主。


「空いてるんだな」


「皆大通りの武器屋に行くからな。いつもこんなもんだよ。俺んところは裏が工房になっていてそこで作ったものを売っている。職人兼商売人ってとこさ」


 と客がいないのも気にしていない様子だ。リンドが店の中にある武器を見ているとリンドが持っている杖をじっと見ていた店主が突然声をあげて


「おい、あんたその杖。どこで手に入れた?」


 言われて店主の方を振り返ったリンドは


「これかい?自作だよ?」


「自作だと? 悪いがちょっと見せてもらっていいかな?」


 言われるままに手に持っていた杖を店主に見せるとそれを手に持ってじっと見て、


「俺は鑑定スキルを持ってる。この杖は魔力が増大する優れものじゃないか。その上相当硬い。こんな杖は初めて見た。装飾も何もないシンプルな形だがこりゃ相当価値のある杖だ」


 そうして杖を返しながら、


「俺はこの店の店主でトムという。あんた、この杖を俺に売ってくれないか?金貨10枚でどうだ?」


「金貨10枚?」


 その金額を聞いてびっくりしていると肩に乗っていたミーが地面に降りるとリンドを見て大きく首を縦に振る。元々原価0の杖が金貨10枚に大化けだ。


「俺はリンド。金貨10枚なら売ってもいいよ。まだ家に持ってるし」


「なんだと?まだ同じ杖を持ってるのか?」


「ああ。あとまだ20本以上はあるな」


「ち、ちょっと待て」


 そう言うと店主のトムはしばらく考えてから


「とりあえず金貨100枚で10本売ってくれ。売れ行きが良ければさらに追加したい」


 リンドは今の所魔石の買取りで現金を得ていたが、作った物が売れて現金になるなら悪い話じゃないと思って足元にいる黒猫を見ると再び首を縦に振ったのを見て。


「わかった。ただ、俺の家は市内じゃないんだよ。街の外に一人で住んでるんだ」


「街の外で一人で住んでる?また変わった奴だな。いや、どこに住んでいようがどうでもいい。売ってくれるんだな?」


 そう言った武器屋の親父、トムの声はうわずっていた。


「ああ。定期的にこの街に来ているから。そうだな1週間後でどうだろう?」


「わかった。金はその時に払う」


 そうして武器屋を出て大通りを歩くと肩に乗ってきたミーが耳元で、


「あの店主、物の価値をわかる人ね。普通に金貨10枚の価値はある杖だもの。それにこっちの足元を見て安く言ってこなかったしまともな職人さんね。リンドもこれからあの店に杖を売るだけで生活費が稼げるじゃない」


「確かに」


 金貨3枚もらって大喜びしていたら同じ日に金貨100枚の話しが出てきたりと、リンドはケット・シーのミーに会ってから自分の生活が一気に変わってきたのに気づいた。もちろんのんびりと生活したいというスタイルに変化はないのだが。


 街で細々とした日用品を買うと麻袋に詰めて森の家に持って帰ってきたリンド。


 翌日からは森の中でいつもの日々を送る。魔法と武術の訓練と生活するための狩猟や釣り。少し前から庭に畑を作りそこに種を巻いて野菜や果物を育てている。これもケット・シーのミーのアドバイスだ。


「魔素が多い場所は植物や果実が早く育つのと味が美味しくなるのよ。時給自足にピッタリでしょ?」


 そうして前回街を訪れてから1週間後、リンドとミーは杖10本と袋にランクCの魔石をたっぷり詰め込んでミディーノにやってきた。


 最初に武器屋に顔を出すと店主のトムが


「待ってたぜ」


 そう言いながらリンドが持ち込んだ10本の杖を1本ずつ鑑定していき、


「うん、どれも同じだな。いや見事なもんだ。じゃあ10本の代金の金貨100枚だ」


 100枚の金貨を受け取って袋にしまうリンド。


「この杖ならいつでも買い取るぜ。街に来た時は必ず顔を出してくれ」

 

 その声を聞いて店を出たリンドはこの前の防具屋に顔を出すと魔力のアップするローブとズボンを購入した。金があるのでこの前見せてもらったのよりも上のグレードの装備を購入する。


「これでまた強くなれるわ」


 耳元でミーの言葉を聞いてその足でギルドに顔を出してランクCの魔石を60個、金貨3枚で買い取ってもらった。

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