第7話 森の奥に冒険者がやってきた
用事を済ませると真っ直ぐに森の中の家に戻ってきたリンドは普段の生活ペースに戻って黒猫、いやケット・シーのミーとの一人と一匹の生活を楽しんでいる。
毎日鍛錬を続けているリンドは今では家のあるランクBエリアの魔獣も単体なら問題なく一人で倒せる程になっていた。
「実力的には既に冒険者のランクB以上はあるわよ」
今日は黒猫の格好のままのミーが話しかけると、
「ランクには拘ってないからなぁ。でも実力が上がるのは生活していく上で有利になるのは間違い無いからそれは素直に嬉しいよな」
そうしてリンドが森の家で暮らし始めて2年と半分が過ぎた頃、森の魔獣を倒して得たランクCの魔石をギルドに持ち込むと
「ポイントが貯まったのでランクBに昇格できます」
そう言ってランクBの新しいカードを手に入れた。パーティを組んでいる人たちよりはずっと遅いペースだが競争をする気もないリンドにとっては急いでランクをあげる必要もなく、家の外の魔獣を倒すことができればそれでOKだった。
その間数度に渡って武器屋のトムの店に杖を売って金貨を得ていて生活するには十分過ぎるほどの金貨を持っているリンド。その杖もリンドの魔力が大きくなると杖の性能もアップし今では杖1本で金貨20枚で買い取ってくれるほどになっていた。
武器屋のトムによるとリンドの杖は高ランク冒険者を中心に非常に評判が良くて、仕入れたそばから売れていってるらしい。とは言ってもリンドはあまり商売っ気がないのでトムの店に売る数量が増えることもなく、不定期に10本、20本と販売している。
一方自宅ではミーの指導も続いていてリンドは有り余る魔力を使って精霊、回復、治癒、そして強化魔法と全ての魔法のレベルも上げていて、今では家の周囲に張っている結界はミーからリンドの結界に変わっていた。また武術についても杖を武器として使いこなせる様になっていてこの森の家での生活にもすっかり慣れて、また周囲が脅威とはならない位にまで強くなっている。
ケット・シーのミーは日によって黒猫のままだったり、ケット・シーになったりと気分によって姿を変えてはいるが魔素の濃いこの森が元々自分の住処だったこともありリンドの指導をしていない時は一人で森の奥に消えたりどこかに行っているが真面目にも夕方にはいつも家に戻ってきていた。
「そろそろ森の奥のランクAを相手に鍛錬する時期かもね」
「そうなんだ。まぁ先生のミーに指導は任せているからな」
ランクBなら3体くらいなら問題なく倒せる様になっているリンド。ケット・シーのミーは少し前からリンドならランクA 1体は問題なく倒せるだろうと見ていた。
リンドは知らなくてそう言うものだと思っていたが、ランクBの魔獣をランクBのソロが倒せると言うことはあり得ない話で、ランクBの魔獣を倒すにはランクBの冒険者はパーティを組んで倒すのが普通だ。ソロでランクB3体を同時に相手をして倒せる時点で既にリンドの実力はランクAクラスにまでなっていた。
そんなある日、朝の鍛錬を終えて家で昼食を食べているとケット・シーになっていたミーの両耳がピンと上に上がる。それを見てリンドも気配を探ってみると、
「誰か来る」
「リンドの気配感知能力も上がってきたわね。でもまだまだよ。来るのは人間が5人。ここまでわかる様にならないと」
そう言うと黒猫の姿になるミー。俺もまだまだだなと思いながらミーを肩に乗せて庭に出て気配を感じる方向を見ていると、しばらくして5人の男女が森の木々の間から出てきた。
ミーはリンドの肩に乗っている。近づいてくる男女を見ていると耳元で
「ランクAのパーティみたい。人間的には…そうね。悪い人はいないわ」
それを聞いて安心したリンド。近づいてくるパーティの精霊士と僧侶の杖を見て
(俺が作った杖だ。ちゃんと使ってくれてる人がいるんだな)
「こんにちは」
パーティの先頭を歩いている盾を持っている男が声をかけてきた。軽く頭を下げると近づいてきたパーティ5名がリンドの前に立ち止まる。
「ここに住んでるのかい?」
「そうだよ」
「一人で?」
「いや、こいつと一緒だ。ミーという黒猫さ」
肩に乗っている黒猫のミーを撫でるとにゃーと声を出す。
「突然来て申し訳ない。俺達はランクAの魔獣を討伐しようと思ってミディーノからこの森にやってきた5人組みのパーティだ。俺はキース、このパーティのリーダーをしている」
キースという男が自己紹介をすると残りの4人もそれぞれ自己紹介をした。
盾 キース
戦士 コリー
精霊士 ショーン
僧侶 ジェシカ
狩人 クリスティ
こんな構成でミディーノでは有名なランクAのパーティらしい。有名らしいというのは戦士のコリーが自分で言っていたのだが、滅多にギルドに顔を出さないリンドにはわからない話だった。
彼らの自己紹介が終わると、
「俺はリンド。一応ミディーノのギルドに所属している。もっとも滅多に街には行かないけどね。普段はここに住んでる。ランクはB、ジョブは賢者」
賢者と聞いてびっくりしたのが2人、なるほどという風に納得したのが3人。
「まさかこんなところに住んでいる人がいるとは」
斧を持っている戦士のコリーが言うと精霊士のショーンも
「こんな森の中に住んでる人がいるって誰も知らないだろう」
「そうだろうね。誰にも言ってないし。それよりせっかく来たんだから家の中で休んでいくかい?」
「いいのかい?」
とキース。
「もちろん。別に人との付き合いを拒絶して一人で住んでるわけじゃない。マイペースで動ける一人が好きなだけで人間嫌いじゃないさ。さぁどうぞ」
そうして5人を家に入れて居間に案内すると、珍しそうに家の中を見ている5人。リンドはキッチンから木のコップと果実汁を持ってきてテーブルに置いて勧めた。
「美味しい」
一口飲んだ狩人のクリスティが声を上げると果実汁を飲んだ他のメンバーも一応に美味しいと言う。
「ミディーノの街の果実汁よりもずっと美味しい」
僧侶のジェシカは味わう様に飲みながら言う。
「採れたてだからだろうな。まだまだあるから必要なら言ってくれ」
「いつからここに住んでるんだい?」
女性と同じ様に美味いなと果実汁を飲みながら聞いてきたリーダーのキースの問いには
「どうだろう。もう3年以上にはなるかな」
「ってことはランクBになる前からここに一人で住んでると?」
「そうなるね。まぁその辺については聞かないでいてくれるとありがたい」
ケット・シーのミーのことは言えないのでそう言うと5人もわかったとうなずく。もとより冒険者は他人のプライベートには関与しないという不文律がある。ミーはというと今はリンドの肩から降りて居間の中にある高い場所に座って全員を見下ろしていた。
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