第5話 杖を作る
森での生活を半年ちょっと続けた頃、リンドは倒れている木を魔法で削って薪を作ったり、魚を採る竿を作ったりすることまでできる様になっていた。
「魔法の基礎についてはもう完璧よ。体力もずいぶんついた。ここまで素直で物覚えが良いとは想像以上だったわ」
居間でケット・シーの姿になっているミーがリンドに話しかける。
「そろそろ次のステップにいく頃ね」
「次のステップ?」
「そう。今のリンドはね、冒険者で言えば精々ランクCクラス。それじゃあまだこの森で一人で生活はできないわよ。この家のある辺りはだいたいランクBの魔獣の生息エリア、少し森の奥に行くとランクAの生息エリアになるわ。そしてさらにその奥にはランクSもいる。ランクAをソロで倒せるくらいにならないと生活できないでしょ?」
そりゃそうだと納得するリンド。
「基礎は終わったから今度は応用よ。また厳しくやるわよ」
そうして翌日ミーは森の中にある倒木の中から1本を選んでリンドに魔法で削らせて2メートル程度の長さの材を数本作るとそれを家に持って帰らせた。
「今日は杖を作るわ」
「杖?」
「そう。後衛ジョブ、魔法使いが使う杖よ。杖を持つと魔法の威力が増すの。もっともどんな杖でもいいって訳じゃないけどね」
庭に置いた木はミーの指示で山から取ってきたエルムの倒木だ。
「エルムの木は硬くて丈夫なの。そしてこの森に生えているエルムはたっぷりと森の魔素を吸い込んでいるから魔法の伝達も良いのよ」
「なるほど。どの木でもいいって訳にはいかないんだな」
「そうそう。そのあたりの知識もおいおい教えてあげるけど、まずはこの木を原料にして杖を作るわね。風魔法で木を削り出してくれる? 失敗しても大丈夫よ。材料はたっぷりあるから」
庭にエルムの倒木を1本を置いて両手をかざして風の魔法で切り出していくリンド。切り出して材にしたところでそれに魔力を注ぎ込んでいく。1本できたところでそれを手に取ったミーは
「これは全然ダメね。木の中にある魔力が一定じゃない。材の中に均等に魔力を注ぎ込まないと効果がでないわ、木が持っている魔素とリンドの魔力を均等に木の中でまぜる様にしないと。はい、やり直し」
そうして再びトライするが何度もミーからダメ出しをくらい持ってきたエルムの木がどんどん減っていく。結局初日はミーから合格はでなかった。
2日目も同じことをやり合格はなし、そうして5日目、もう何十本目かの切り出しをしたところ、
「うん。これならぎりぎりいけるわ」
ようやくミーから合格を貰い、
「魔力を均一化するって結構難しいな」
「でもそれができると魔力が強くなって威力が増すし魔法のコントロールがしやすくなるの。同じ魔法でも威力を抑えたり強くしたりできる様になるからね。そしてそれは全ての魔法に応用が効くのよ」
「なるほど」
ようやく合格を貰ってホッとしている表情をしながらミーの話を聞く。
「今度はこれを綺麗に杖の形に削り出すの。今と同じ様に均等に魔力を注ぎながらゆっくりと削っていって、急がなくていいわよ魔力を均等に注ぐことに集中して」
言われるままにリンドは目の前にある杖となる材に魔力を注ぎながら風魔法で削っていく。頭の中にはミディーノの街やギルドで見た魔法使いが持っていた杖をイメージしながら慎重に削っていって
「出来た。どうだい?」
リンドの手の中には長さ1.5メートル程のエルム材から作った杖が1本握られていた。杖の先端は丸い円形になっている。
リンドから手渡された杖を手に取ったミーは細部まで見てから
「まぁとりあえずは杖の形になってるわね。うん、魔力の注ぎ方も一応合格レベル。慣れたらもっと精巧な模様を彫ったりもできる様になるし、それはリンドがまた作ればいいからね」
杖でも合格をもらって安堵するリンド。
結局一日中削りだしをしてこの日は終わり、翌日ミーと一緒に家を出て森の中を歩いて街道近くのランクCのエリアに着くと
「ここで魔法を切るからね。魔獣もリンドの気配を感じる様になるからね」
わかったと頷いて森を歩いているとランクCの魔獣が視界に入ってきた。
「杖の先端を相手に向けて、あとは一緒よ」
言われるまま杖を持っている左手を前に出して先端を少し傾けてから魔法を唱えると杖の先から勢いよく雷が飛び出してランクCのオークに直撃すると1発でのけぞって倒れてしまった。
「なんだ?一撃で倒れてしまった」
リンドがびっくりして言うと
「リンドの魔法と杖の威力ね。ランクCが1発で倒せるなら上出来上出来」
そうして魔石を取り出して腰に吊るしている袋に収納する。
「杖ってのはすごいんだな」
「杖というか杖の材質とリンドの魔力の両方ね。相乗効果が出てるわ」
何本も杖を作らせながら魔力を集中させる訓練をさせていたケット・シーのミー。そのおかげでリンドは魔力をロスなく手のひらから魔法として具現化できる様になっていて、結果魔法の威力が増大したのだ。
その後もランクCの魔獣を討伐して魔石を回収して家に戻ったリンドは、ミーの指導の下で予備の杖を3本同じ様に作った。それらをチェックしたミーは
「作るたびに良くなってる。この最後に作った杖は最初の杖よりずっと効果があるわよ」
その後もリンドは魔力の均一化の訓練の意味も込めて何十本もの杖を作って倉庫に保管した。杖の品質も安定しどの杖を持っても同じ効果が得られる程になっていた。
その間にも月に1度はミディーノの街に出てはクエストをこなしていったリンド。一度で討伐するランクDの獲物の数が多かったせいもあり、ランクDになってから9ヶ月程たったところでランクがDからCにアップした。
「これで本当の冒険者ですね」
受付嬢から新しいギルドカードを受け取ったリンド。受付嬢が言う通り世間の評価ではランクCになって初めて冒険者として一人前と認められる。
そしてここから上を目指すのはハードルがぐっと高くなる。ランクBになるには必要となるギルドのポイントが急激に増えるので冒険者はポイントが高い護衛クエストをこなしたり、難易度の高いクエストを何度かこなしていくのが普通だ。
つまりソロでは厳しくなってくるのだ。もちろんランクCの魔獣の討伐だけでもギルドポイントは溜まっていくがその必要ポイント数が多く、パーティを組んでいるランクCの冒険者たちは大抵護衛クエストの数をこなしてランクBに上がる為に必要なポイントを貯めている。
リンドはランクC、一人前の冒険者になるのが目標だったので焦ることもなくマイペースでミーの指導の下で魔法の質を高め、同時に体力の増強をしていた。
ランクCに上がっても毎日重い木材を持ち上げてスクワットしたり、家の周りを走ったりして体を鍛え、そして杖についてもそれを武器として使用するやり方を教わっていた。
「この長い杖、魔法だけじゃなくて振り回したり突いたり、相手の攻撃を受け止めたりといろいろと使い道はあるのよ」
「なるほど 武器にも防具にもなるってことだな」
「そうそう。それでこのエルム材から作った杖は元々の木の材質が硬い上に森にある魔素、そしてリンドの魔力が込められてるからさらに硬くなってるわよ。ちょっとやそっとじゃ折れない位にね」
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