第4話 リンドを鍛えてあげよう
翌日目が覚めて居間に行くと、ミーは既にケット・シーの格好で座っていた。
「ちょっと教えてくれるかな?ここって結構森のなかだろう?どうしてここにくるまでに魔獣と会わなかったんだ?」
リンドの質問に、
「魔獣が少ないルートを選んでいたのと、私の魔法で私とリンドの気配を完全に消していたからよ。だから気づかれないの」
あっさりと答えるミー。そうなのか、妖精ってのは想像以上にすごいじゃないかよと思っていると、
「早速今日から始めるわよ。まずは食料を取りにいきましょう。妖精と違って人間は食べないと死んじゃうからね」
「妖精は平気なのかい?」
「そのうちにわかるけどこの森のこの辺りは魔素が濃い場所なのよ。妖精は魔素があれば食事はいらないの。もちろん食べても問題ないのよ。ミディーノ街で毎日食事をくれたでしょ?美味しかったわよ」
そう言って家から外に出てそのまま結界の外に出て森を歩いているとリンドもよく見る果実がなっている木を見つけた。そうやって果実を集め、きのこを取って一旦家に戻ると今度は近くの川に行きそこにいる魚を3匹程捕まえる。家の庭に戻ってくると、
「さてと材料は揃った、今度はこの魚を調理するのに火がいるわよね」
頷くリンド
「そう言うわけで先ず火の魔法から教えるわよ。というか魔法はどの魔法でも同じなんだけどね」
そう言ってミーがリンドに体内にある魔力を魔法として具現化する方法を指導する。
「指先に意識を集中して。魔力がわからないなら血を指先に集めるイメージで」
言われるままに右手の中指に集中すると体内を何かが流れて指先に集まってくる感じがしてきた。そのことを言うと、
「そうそう。それでいいの。そうして頭の中で作りたい火のイメージをして」
リンドが頭の中で指先から火の玉が浮き出る様なイメージをすると、集中していた指先に小さな火の玉が出てきた。
「すごいじゃない、一回で成功するなんて普通はないわよ。それが魔法よ。じゃあその日を大きくしてみて。大きくするイメージを持つの」
言われるままに脳内でイメージをすると火が大きくなっていった。
「俺が魔法を使えるなんて」
指先で赤々と燃える火の玉を見て感動するリンド。その火を使って薪に火をつけて魚を焼いて庭で食事をする。
隣に座っているミーはリンドの食事が終わると、本格的に魔法を教えて始めた。
ミーの指導は厳しく何度も「だめね、もう1回」とダメ出しを食いながらもリンドは必死で魔法を覚えていった。
それからは毎日毎日精霊魔法、回復魔法、強化魔法、治癒魔法など賢者として使用できる魔法を基礎から教えていき、リンドもそれに応えて何度もダメ出しを食いながらも魔法を会得していく。
ミーは魔法と同時にリンドに生きていく生活の知恵や森の中に生えている草、木々についても教えていった。
「妖精はこの世界のあちこちにいて自然と一緒に暮らしているの。普段はまず見えないけどね。その知識は人間よりずっと豊富よ」
その豊富な知識を惜しげもなく教えてくれるミー。森の家に住み始めてからは、毎朝起きると敷地内を走り回り、それから木の枝にぶら下がって懸垂をして体力を鍛える。それが済むと朝食。そして昼食を挟んで夕方まで毎日毎日魔法の訓練をし、夕食が終わると眠るまでの間は生活の知識の勉強が続いた。毎晩バタンキューで泥の様に眠り、翌日朝起きると再び訓練が始まる。そんな日々を過ごして森の奥に住み始めて1ヶ月ちょっと続けた頃
「今の魔法の威力ならランクDのクエストの対象の魔獣ならなんとか討伐できるレベルよ。一度街に戻ってクエスト受けてみる?」
「なんとかか。でもやらないと冒険者権利が剥奪されるって話だしな。街に行ったついでに買い物もしないと、ずっとこの服だったから」
魔法の使い方を覚え、その威力についても最初の頃に比べると少し上達していた。最初は指先から出ていた魔法も今では左右どちらの手のひらを突き出して無詠唱で魔法を打てる程になり、それによって魔法の威力が上がっていた。
黒猫になったミーを肩に乗せると森の家を出てミディーノの街に久しぶりに戻ってきたリンド。
ギルドに顔を出して掲示板にあるランクDの魔獣討伐のクエストの用紙をひっぱがす。
『ゴブリン討伐 討伐部位は耳。最低5体。報酬は銀貨10枚。それ以降は討伐数に応じて報酬が変動』
クエスト用紙を受付に出すと受付嬢のマリーが、
「全然来なかったからどうしたんだと思ってたんですよ?」
「まぁ、色々あって」
詳しいことを言わずにいるとマリーもそれ以上は聞かずクエスト用紙を受け取り、
「期間は3日です。過ぎるとペナルティがありますから気をつけて」
そうしてギルドを出るとミーが耳元で、
「このまま外に出てクエストをやっちゃいましょう」
街の外に出るとこっちよと耳元で教えてくれるミーの指示する方向に歩き出すリンド。そういえばゴブリンってどこにいるかすら知らないやと思って言われるままに街道を歩いてそれから林の中に入っていく。
「この先にいるわ。リンドの魔法なら倒せるから自信を持って」
林の中を進んでいくとミーの言う通り前方にゴブリンが見えた。目に見える範囲で3体のゴブリンがいる。リンドは一番手前のゴブリンに手を突き出して火の精霊魔法を脳内で唱えると手のひらから火の玉が勢いよく飛び出してそのままゴブリンの首に命中して絶命させた。
「すごい」
そう呟いていると残りの2体がリンドに向かって近づいてくる。それを冷静に1体ずつ精霊魔法で倒したリンド。
「すごいじゃない。初めての戦闘にしちゃあ落ち着いてる。まさか魔法1発で倒せるとは思ってなかってけど魔力が強いからかな。さぁ耳と魔石をとりましょ」
戦闘が始まるとリンドの肩から飛び降りていたミーがゴブリンの死体に近づくとリンドも後に続いて近寄り、薬草採りのナイフで耳をそぎ落とし、魔石を3つ取り出した。
「この調子ね。どんどんいきましょ」
その後も林の中で出会うゴブリンを片っ端から倒しては耳と魔石を取り出して、夜は林の中でミーが張った結界の中で仮眠をし、翌日の夕方まで丸2日ゴブリンを狩りまくったリンド。
「もう袋がパンパンで入らないよ」
「じゃあ街にもどりましょうか。それにしても連続で狩っても魔力が切れなかったわね。うん、私の想像通り」
そうして林を出てミディーノの街に戻ってギルドに顔を出して耳と魔石をカウンターに置くと、その数を数えたマリーではない別の受付嬢が
「耳が50、魔石も50個、結構取りましたね。これが報酬になります。耳は5個で銀貨1枚ですから10枚、魔石は1個銀貨2枚で買い取りますから銀貨100枚、合計銀貨110枚ですね」
そう言って銀貨リンドに渡したのは今までリンドが持ったこともない様な大金だった。
今までの薬草採りだと精々1日の稼ぎが銀貨4、5枚だったのを思うと段違いの収入だ。
「そりゃそうですよ。魔獣との戦闘になりますから報酬は高くなりますよ」
受付嬢の言葉になるほどと頷いて一旦ギルドを出たリンド。
「そのお金で装備を買いましょう」
耳元で囁くミーの言葉に従って一人と1匹は街の中にある防具屋に入り、そこでローブとズボンと靴を買い、その後は雑貨屋を回って身の回りの衣服などを購入した。
ついでに大きな麻袋を買ってそこに衣服を詰め込んで店を出たリンド。
「装備を変えただけだけど一端の冒険者らしくなったよな」
「そうね。何の効果もない防具だけどないよりはいいわね」
肩に乗っているミーと小声で会話をしながら街を出て自分の森の家に戻っていった。
そして家に戻ると再びミーの指導の下、魔法と体力強化の訓練をするリンド。そうしながらも1ヶ月に1度は街に戻ってクエストをこなしなしていた。
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