第4話 苦い

-「出会いもあれば、別れもある。」


-「別れは次の人と出会うためのきっかけ。」


こんな言葉たちは、ただ都合のいい言葉にしか聞こえなかった。


「恋人に別れを告げられた人間は、沢山泣いた後、すぐに切り替えて新しい恋人を探すなり、自分磨きをするなり、趣味を見つけるなりするべきだ。」


そんなことは分かっていた。

そうしなきゃいけないことも、そうしなくてはいずれ傷つくことも。


だけど、その時の私には到底不可能だった。


次の日の朝。

寝起きだった私は、眠い目を擦りながら、きっと夢だったに違いない、悪夢だったに違いないと信じたくて、何度も自分の頬を叩いた。


朝携帯を開くと、いつもそこにあった彼からの「おはよう」のLINE。


今日もきっと送られてきている。

そう信じ、一刻も早く悪夢から覚めたかった私は目をつぶり、携帯を開いた。


しかし、目を開けたそこには、昨日切った電話の履歴だけ。


一瞬、時が止まった。


そして、その直後、目からは湧き出る温泉のように涙が溢れ出てきた。


私は狂ったように泣いた。


息もまともに出来ないほど、声も出せないほど、泣いた。


化粧水で保湿された肌と、シャンプーの匂いが染み付いた枕は、涙でぐしょ濡れになっていた。


その日から数日、食事は喉を通らなくなり、何をするのでも頭に入ってこなくなった。

友達とも家族ともまともに会話することが出来なくなり、私は自分の部屋に引きこもった。


そして、ひたすら時間が解決してくれることを願った。


しかし、数日経っても時間に解決されることはなかった。

むしろ、頭の中はごちゃごちゃに混乱していて、何故自分が泣いているのかさえも分からなくなっていた。


ただ、苦く重いものが、鉛のように私の上からのしかかってきて、押し潰されそうになっていたことだけが、確かだった。


人生で最も苦い瞬間だった。



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