第3話 凍った心
失恋は嫌いだ。
長い時間をかけてお互いを知って、お互いの気持ちに気づいて結ばれた2人が、運命だとお互いに信じあって結ばれた2人が、家族と同じくらい大切だと思える相手に出会い、ときにぶつかり合いながら支え合ってきた2人が、互いに別の道へと背中を向ける。
失恋は、「恋人」という関係から他人に、もしくは他人以下にまで遠い存在になる時間のスタート。
まさに「終わりの始まり」。
この瞬間が大嫌いだ。
夜中にかかってきた彼からの電話を切った私の目からは涙すら出なかった。
何かの間違いだと言い聞かせ、現実から目を離していた自分への情けなさ、彼の本当の気持ちに早く気づくことが出来なかった自分の愚かさが、抉られた私の心臓に次から次へと矢の如く飛んで、刺さってくる。
泣かなかったのではない、泣けなかったのだ。
彼との最後の会話で乾ききった喉、動揺を隠せない目、振られたという事実、失恋したという事実を受け入れられず、真っ白に凍りついた頭。
電話を切ったベッドの上の私は、人間の形をした冷たい体でしかなかった。
どんなに言い合いをしても、どんなに喧嘩をしても、恋人だった彼からの言葉には、私の心を溶かしてくれるような温かい愛があった。
彼の心の底にはいつも私を思う温かい気持ちがあった。
でも今は違う。
私に別れを告げた彼からの言葉は、冷たく凍りついた氷のようだった。
彼は別れ話をするときですら、私を思いやって、丁寧に言葉を選び、優しく話してくれていた。
でも電話越しの彼の声で分かった。
もうそこに私への愛がないことくらい。
皮肉にも、彼とは長い付き合いだったから。
電話越しでも感じた。
優しい言葉を発する彼の心の奥には、はっきりとした固い決意があることを。
悔しかった。
表面だけでも優しい彼の言葉に、泣いてすがりつきたかった。
泣きたかった。
彼の凍りついてしまった私への愛を、涙で溶かせるのならいくらでも。
私は放心状態でベッドに寝転ぶと、頭の中でさっきまで私の隣でお弁当を喜んで食べてくれていた彼の姿が、モノクロ映画のワンシーンのように変わって、止まった。
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