第5話 義妹の誤算
女の人のこと教えるって、具体的に何するんだ?
妄想と期待が風船のように膨らみ、兄妹だからという世間体と、所詮義理だしという本音が心の中でせめぎ合った。
勝負はあっという間、本音が圧勝した。欲望に従い本能のまま交わり合う二人の姿を妄想する。すると身体のある箇所がムズムズし始めた。
「リナ……」
俺はごく自然に義妹の頭を顔近くまで引き寄せた。このまま唇を……と目をつぶったところで、義妹は俺からパッと身体を離し、ニコリと笑った。
「フフッ、じょーだん」
「えっ……?」
「さっ、はやく映画観よ〜」
義妹は俺の横に座り直すと、何事もなかった様にテレビ画面を見始めた。
おいおいっ……、ここまで煽っておいてそれはないぜ。行き場をなくしたこの胸の高鳴りと下半身の熱をどうしたらいいんだよ……。
その日の晩は本当に映画を観るだけで、俺たちの間に何も起こることはなかった。
◇ ◇ ◇
数日後、私は友人たちとの飲み会に参加していた。
「リナ〜、おにいちゃん落とせた〜?」
「うん。だからもう用なし」
「さっすが〜!」
完全に落ちたとは言えないが、もういいだろう。
それにしても、あの晩の義兄の雰囲気はヤバかった。童貞のくせして急に大人の男オーラ出してくるんだから……。危うくキスしそうになったじゃん。
「リナ、顔が赤いよ? 大丈夫?」
「ちょっと酔っただけだよ。今日は二次会行かずに帰るわ」
「えー、一人で大丈夫? おにいちゃんに迎えに来てもらったら?」
「大丈夫、大丈夫」
飲み会終わり、みんなと別れ一人夜道を歩く。夜風が心地よく、熱を冷ましていく。
「リナちゃん!」
家の近くまで来たところで、突如背後から声をかけられた。恐る恐る振り向くと、街灯の下に以前捨てた男が立っていた。
「なんでアンタがここにいるのよ」
「リナちゃんに会いたくて……。ねぇ、俺たちもう一度やり直さない?」
「やり直すって、何言ってんの? 私、付き合ってた記憶なんてないけど?」
「じゃあ何であんな彼女のような態度を取ったんだよ!?」
「アナタが勝手に勘違いしただけでしょ?」
あー、面倒くさい。捨てられてグズグズ言う男なんてキライ。
無視して家に帰ろうと、男の横を通り抜けようとしたその時、男が私の腕を力いっぱい掴んだ。
「痛いっ! 離してよ!」
「こうなったら無理矢理でも俺のものにしてやる!」
男は本気のようだ。その力の強さに私は恐怖で動けなくなる。
「おいっ! 何してるんだ!」
その時、別の男が私の身体を抱き、男から引き離した。
「た、たっくん……」
「リナ、大丈夫か?」
義兄だ。仕事終わりのようでスーツを着ている。私はその腕に包まれ、安心して力が抜けていくのを感じた。
「クソっ……お前、新しい男か?」
「俺はリナの兄だ!」
「お兄さん? そ、それならその妹をどうにかしてくださいよ! ソイツ、男をその気にさせては捨てる悪魔なんですよ!?」
「キミには悪いことをした。ほら、リナも謝るんだ」
「ご、ごめんなさい……」
兄妹ふたりで頭を下げると、男は渋々と去っていった。
その後、義兄は私の手を取り、何も言わずそのまま家に向け歩き始めた。
私はその背中を見ながら、初めて自分の中に芽生えた気持ちに戸惑っていた。
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