第4話 耐えろ俺!

『お兄ちゃんの部屋に行ってもいい?』


 シャワーで頭を冷やしても、義妹の言葉が頭の中でリピートされ続ける。

 ただ俺の部屋で映画を観るだけ……二人きりで……ベッドのそばで……って、おいっ! 俺は今何を想像している!? 相手は義妹だぞ!?

 しかし脳というのは誘惑に正直なようで、無意識のうちにいつもより入念に身体を洗っていた。


 風呂から上がると、俺は部屋で義妹を待った。

 立ったり座ったりしながら、ベッドに横になっておくべきか、床に座っておくべきか迷っているうちに、コンコンと軽いノック音が聞こえ、義妹が部屋にやって来た。手には缶ビールと缶チューハイを持っている。


「おじゃましま〜す」

「お、おう。好きなとこに座って」


 確かに『好きなとこ』とは言ったが、ベッドの端に体育座りで座るのは反則だぞ!

 俺は義妹から離れたところに正座した。自分の部屋なのに、なぜか急に別世界に来たように感じられる。

 すると義妹はベッドをポンポンと叩き、『お兄ちゃんもこっち来てよ』と誘った。俺は恐る恐る近づき、ベッドを背もたれにして座り直す。それを確認した義妹は、スルスルと降りてきて俺と横並びで座った。そして缶ビールを俺に渡すと、自分が持つ缶チューハイを傾け小さく乾杯した。

 ビール缶を傾けながら横目で義妹を盗み見る。露わになった真っ白な太もも。前ボタンが開けられ谷間の見える胸元。チューハイを口に運ぶたび波打つ細くスラッとした喉元。俺の目の前には、理性を吹き飛ばすのに十分なほどの誘惑があった。

 片腕を彼女の肩に回し、強引に引き寄せキスをする……そんな妄想をしていると、義妹がアルコールが入り潤んだ瞳でこちらを見た。


「ねぇ、お兄ちゃん。二人きりの時は『たっくん』って呼んでもいい?」

「たたたたっくん!?」

「ダメ?」


  “くん” 呼びってなんかズルくないっすか!?  急激に恋人感増すんですけど!?

 俺は一度は折り捨てた同居ラブフラグをいそいそと回収し始めた。


「たっくん、お仕事で疲れてるでしょ? 肩もみしてあげようか?」

「い、いや、大丈夫だから!」

「まぁまぁ遠慮しないで〜」


 義妹は再びベッドに上り、俺の背後に座り直した。それはちょうど義妹の股の間に俺の身体がすっぽりとはまるように……。


「んん……あっ……、たっくんのすっごい硬い……」


 ヤバい……。耳元で吐息を漏らしながらそんなことを言われると、ただ肩もみされているだけなのに、なんだかイケナイことをしているように聞こえてしまう。下を向いて耐えようとするが、腕のすぐ横に義妹の生足が見える。


 耐えろ俺! 無になるんだ俺!


「……ねぇ、もしかしてたっくんって童貞?」 


 この義妹! 可愛い顔してなんてこと言うんだ!? 

 赤面したまま何も答えられずにいると、義妹はクスッと笑い、唇が俺の耳に触れそうになるほど顔を思い切り近づけ、そして耳元で囁いた。


「じゃあさ、私が色々教えてあげようか?」

「え? 何を?」

「フフッ、女の人のこと」


 おいっ、俺! 同居ラブフラグを勝手に立てるんじゃなーい!

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