第3話 天使の顔した肉食系小悪魔

 授業終わりに大学構内にあるカフェテラスで女友達と二人、今週末に予定された飲み会の話をしながらお茶をしていた。

 その時、そんな私たちの楽しい時間を一人の男が壊してくれた。


「リナ! やっと見つけた! ねぇ、なんで最近会ってくんないの!? 俺たち上手くいきそうだったよね!?」


 この男はこの間捨てた男だ。

 男は怒り気味で私に詰め寄って来るが、こんなことに慣れっこな私は全く動じない。だって負けた男の遠吠えを聞いたって怖くもなんともないから。


「ごめんね~。私はアナタの気持ちには応えられない」

「俺のこと好きだったんじゃないの!?」

「アナタのこと『好き』って言った覚えないけど?」

「そ、そんなぁ……」


 男は何も言い返せないまま退散した。そのやり取りを見ていた友人が横でため息をついた。


「なに、また遊んだの? さっきの人結構イケメンじゃん。フツーに付き合ってあげればいいのに」

「付き合うとか面倒くさい。それに恋愛は落とすまでが楽しいんじゃん!」

「うわ~、やっぱリナは可愛い顔してかなりの肉食だよね~」

「肉食って! 別にエッチまではいってないし!」


 私にとって恋愛は、単に相手を落とすまでを楽しむゲームでしかない。言葉や態度で男をその気にさせ、私に惚れさせたら私の勝ち。決してそれ以上は進ませない。

 私をよく知る女友達からは、『なんでそんなヒドイことしてるのか?』と呆れられるが、 “ただ楽しいから” 以外に理由はない。


「で、最近は誰を落とそうとしてんの?」

「おにぃちゃん」

「えっ? リナに兄妹とかいたっけ?」

「ん〜? 最近できたんだぁ。23歳の社会人」

「義理の兄かぁ。で、どう? 落ちそう?」

「それがさぁ、なかなか落ちないんだよね〜」

「おぉ、リナが苦戦してる! 夢中になりすぎて案外その人にハマっちゃうんじゃない?」

「ハハッ! それはナイナイ!」


 彼女がいないと知った日から、あの手この手を使って義兄を罠にはめているが、あの真面目男はなかなか落ちてくれない。

 あ〜、負けたくないなぁ。よし、こうなったもう少し攻めてみるか。



 その日の晩、私は買ってきた2人分のお酒を冷蔵庫に入れ、義兄が帰ってくるのを待った。基本的に義兄の帰宅は深夜近くになる。両親はとうに寝ている時間だ。

 お気に入りのドラマを観ながら待っていると、玄関ドアが開く音がしてリビングに義兄が入ってきた。


「おかえり〜」

「うわっ! まだ起きてたのか!」 

「お兄ちゃん待ってたの〜」

「俺を? なんで?」

「お兄ちゃん、明日休みでしょ? 面白い映画見つけたから一緒に観たいなぁ〜って思って」

「あぁ、いいけど……」

「ヤッタ〜! お酒も買ってるんだ〜」

「おぉ、ありがたい! とりあえずお風呂に入ってくるわ」


 よしっ、勝負の時だ。


「ねぇ、ここじゃお母さんたちの迷惑になっちゃうから、お兄ちゃんの部屋に行ってもいい?」


 今晩こそこの義兄を落とす!

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