第2話 義妹は天使……んっ!?

「リナです。よろしくお願いします」


 義妹は黒髪を片耳にかけながらフワッと微笑んだ。

 なんてこった! 全然パリピじゃない! イエ〜イもない! それよりもこの子可愛すぎるだろ! 天使! マジで天使!! 神様ありがとう!!


「タクヤです。よ、よろしく」


 心の中では男の俺が喜びの舞を舞っていたが、表面上は何とか社会人の義兄らしく挨拶ができたと思う。 


 そんなこんなで新たな生活が始まった。とはいえ、俺は平日仕事でみんなが寝静まる頃に帰宅するし、義妹は土日もバイトや遊びやらで忙しそうだしで、同じ屋根の下で暮らしているのに顔を合わせることはほとんどなかった。



 そんなある日、いつもより少しだけ早く帰宅すると、廊下の奥で浴室の扉がガチャンと開く音がした。こんな時間だから親父だろうと思い、次に入るため脱衣所の扉に手をかけた。その時、中から甘い香りとともに義妹が出てきた。


「キャッ!」

「う、うわっ! ゴメン!」

「あぁ、お兄ちゃんか。おかえりなさ〜い」


 義妹は萌え必死のふわモコパジャマを着ており、短いパンツからは白く細長い素足が見えている。俺はその姿に思わず見惚れてしまった。だって、お風呂上がりで頬を赤く火照らせたその素顔がいつも以上に天使のようだったから。


「ねぇ、お兄ちゃん。このパジャマどうかな? 今日買って来たんだけど?」

「い、いいんじゃないか?」


 めっちゃカワイイです! と叫びそうになるのをグッと堪え、俺は至ってマジメな義兄を演じた。しかし義妹の口撃は続く。


「ほんと? 良かった〜! お兄ちゃんこんなの好きかな〜って思いながら選んだの〜」


 えぇ、好きです! 好きですとも! それも俺を思って選んでくれたなんて……感激です!


「明日もお仕事でしょ? 頑張ってね! じゃ、おやすみ~」

「あ、あぁ……」

 

 俺はこの日を堺に徐々に義妹のトリコになっていった。それが義妹の甘い罠とは気づかずに……。



 その週末、仕事から解放されリビングでゴロッとしながら休んでいると、珍しく家にいた義妹が俺のそばにやって来た。


「お兄ちゃん、確か経済学部卒だったよね? ここ教えてくれない?」

「あぁ、いいけど? 急にどうした?」

「今度テストがあって……」


 兄が妹の勉強をみてあげる、これこそ健全な兄妹の姿だな。リビングテーブルに教科書を広げ、二人で横並びに座る。


「で、どこが分かんないの?」

「えっとね、ココなんだけど……」


 ……んん? 義妹よ、なんだかキョリが近くないか!? それにあの……、む、胸が当たってます!


「お兄ちゃん、顔赤いけど大丈夫?」


 義妹が上目遣いのまま俺の顔を覗き込んでくる。義妹に恋愛感情なんて抱いてはいけない! 無になるんだ俺!


 密着した箇所を意識しないよう少しだけ身体を離そうとすると、義妹が突如尋ねてきた。


「お兄ちゃんって彼女いるの?」

「……いないけど?」

「そっか〜」


 この時、天使の顔をした義妹の目が、一瞬獲物を狩るように妖しく光った気がした。

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