第10話暮れ行くテイラン②

 ◆◇


 その日の夜、ヴィリはフラウに腕枕をしてやりながらベッドでゴロゴロしていた。


「ねえ、ヴィリ姐。黄金都市ってどんな所だったの?」


 フラウの質問にヴィリは眉間に皺を寄せて記憶を思い起こす…


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 記憶の中、ヴィリは1人の青年と酒場で酒を吞んでいる。青年はよく手入れされた革の装丁の手帳を布で磨きながら、ヴィリの話を聞いていた。


「暖かい所に住みたい?なら南域はどうだ。あの地域は年中暑いらしい」


 木杯を煽り、木の実を齧りながら青年が言った。

 ヴィリが南域?と首を傾げると、青年は頷いた。


「俺も書物で読んだだけだから詳しい事は知らないが。なに?英雄譚?神?ああ、お前はその手の伝承を収集してるのだったか…ええと、そうだな。確か…神代と呼ばれる時代に、ああ、ずっと昔っていう意味だ。その時代、南域にはアーテルナムという大きな王国があったらしい…」


 ■


 王国というくらいだから勿論王がいる。


 王というのは国で一番の権力者だというのはわかるだろう?


 しかしその権力の及ぶ範囲と言うのは、国によって様々だ。


 例えば宰相が力を持っていたり、王弟が力をもっていたりする国もある。


 アーテルナムの場合は王の権力がとにかく大きかったそうだ。


 王は神と同一の存在だったんだよ。


 …おい、殺気立つな。話を続けるぞ。いや、酒がない。喉が渇いて話す気を無くした。…ああ、悪いね、別に催促したわけじゃないぞ。ありがとう


 実際、王は王国民達からの信仰を受け、人の身でありながら強大な力を持っていたそうだ。


 そしてその王には美しい妃がいた。


 王は妃を、妃は王を心より愛していた。


 力はある。愛もある。財もある。


 王国は栄華を極めていた。


 だがある日、妃が原因不明の死病に冒された。


 病というのは怪我とは違う、その原因を理解し、特定しなければ取り除く事は出来ない。


 王の強大な力を以ってしても、妃を治すことはできなかった。


 王は狂した。


 狂した末に何をやらかしたか想像できるか?


 んん、近いな。


 王はな、王国民の命を触媒とし、妃に流れる時を閉じ込めたのさ。


 そうすればほら、先の時代に妃を治す手立てがうまれているかもしれないだろう?


 王国民すべての命数が尽きるまでの間、妃は時の頚木から逃れる事になる…のだが。


 時を停めるなどという真似は、それこそ神であっても不可能だとおもうんだがなぁ。


 いや、停めるというより、廻す…のか?


 同じ場所を、グルグルと…


 まあいい、過去の話だ。


 この話のオチはな、その妃は王に術をかけられるまえにとっくに死んでしまっている…という点だよ。


 かくして黄金都市は王の発狂により滅びさってしまったわけだ。


 ん?なんでそんな詳しいんだって?


 ル・ブランの書を読んだ事ないのか?貸すから読んでみろよ。だがかならず返せよ。


 ◆◇


「って感じ」


 ヴィリが説明を終えるが、フラウから反応がない。良く見てみると、フラウはすやすや眠っていた。


「フラウさぁ…」


 ヴィリはしょんぼりしながらフラウを抱き締めて寝入った。

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