第11話黄金郷へ①
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テイラン冒険者ギルドのギルドマスターであるジャドウは調査隊の前に立ち、深い息を吸い込んだ後、力強い声で壮行演説を始めた。
「勇敢なるテイラン遺跡調査隊よ!この遠征は決して容易なものではないが、君たちはテイラン冒険者ギルドの精鋭だ!それぞれの分野の最高の専門家たちが集まった最高の調査隊だ!我々は歴史に名を刻むだろう!」
彼の瞳はちょっとした情熱と大いなる野望で大きく燃えていた。
「遺跡の中には、古代の知識と技術、そして未だ人類には理解できない力が眠っているはずだ!古代王国…失われし黄金郷!文献によれば、先だって発見された遺跡の入口と思しきモノは、その黄金郷に繋がっていると推測される!我々冒険者ギルドの使命とは何か!?それは世界に広がる未知を既知とすることだ!」
ジャドウの語気はますます強くなっていく。
「しかし、遺跡には危険も潜んでいるだろう!凶悪な罠!悍ましき魔物共!皆は互いに助け合い、団結し、前進せねばならないィ!!君たちの遠征はただの冒険ではなく、未来の世界を築く礎となるだろう!」
ジャドウは力強く拳を握りしめる。
「テイラン遺跡調査隊の一員として誇りを持ちこの遠征に臨むのだ!!」
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ジャドウの演説に、調査隊のメンバーたちは熱い感情が沸き立ち始めた。彼らの顔は熱意に溢れ、瞳には冒険への情熱が宿っている。それはともすれば、やや“熱くなりすぎ”とも言える様子だった。
「おい、これから絶対黄金郷を見つけるぞ!!」
「当然だ、俺たちのリーダーはあのアレックスだぜ!ここで手柄を立てて、金等級まで一直線だ!」
街の人々も調査隊に感銘を受け、彼らを見送るために集まっていた。子供たちは目を輝かせ、大人たちもまるで子供のように落ち着かない。
「がんばれ、調査隊!テイランの誇りだ!」
「帰ってきたら、みんなで祝杯をあげようね!」
ここまで街の者達が熱狂する一応の理由はある。
黄金郷…古代王国アーテルナムは与太話ではなく、実際に存在しており、アーテルナムの財宝と見られる宝石、金塊、魔法金属などが時折発掘されるからだ。
その発掘量はテイランを潤すには十分なものだったが、それでも欲というものはキリがない。
財宝というものはあればあるだけ良いと考える者が大半なのだ。
だがかつて黄金郷と称された古代王国アーテルナムへの入口は、長きに渡って見つからなかった。地図の隅に描かれたその場所は、厚い砂の下に埋もれているとされていた。しかし、その掘り起こしは困難を極める。砂を掘り起こす…これは土を掘り起こすより厄介なことなのだ。
ある日、砂漠に滅多に現れないはずの地竜が現れた。
その巨大な身体が地面を蹂躙し、荒れ狂う姿は災害そのものだ。
災害を好むものは余りいない。
だが今回ばかりはやや事情が違った。
竜が暴れる事で地面が砂ごと掘り返され…かくして、長い年月を経て失われていたアーテルナムへの入口が、偶然の産物として発見されることとなった。地竜の暴力により暴かれたその入口は、まるで黄金郷の扉を開く鍵が渡されたかのように、皆の心をくすぐった。
黄金の幻想の香りのなんと芳醇な事か!
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ある若い男性が調査隊の一員である恋人に向かって、涙を流しながら言う。
「無事に帰ってきてくれリサ、愛してるよ」
恋人は微笑み、元気な声で答えた。
「心配しないで、必ず帰ってくるから。それまで待っててね」
ジャドウの演説を聞いた調査隊は、互いに団結し、共に協力し合うことを誓った。街の人々も彼らを心から応援し、彼らが戻ってくることを信じていた。
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ギルドマスターの部屋で、ジャドウと彼の側近が密やかに話していた。彼らは、テイラン遺跡調査隊の出発を見送った後、この部屋で遺跡の危険性について話し合っていたのだ。
「遺跡の中には、古代王国の王が大魔術師であったことを考慮すると──非常に悪辣な罠や凶悪な魔法生物が潜んでいるだろうな」
ジャドウは遺跡の危険性を理解していたが、同時に先遣隊を鉱山のカナリ鳥のように使うつもりだった。
彼は調査隊の全滅も視野に入れている。
テイランにも金等級冒険者は2名程いるが、彼らを投入しないのは調査隊は全滅か、あるいは壊滅的な打撃を受けるだろうという予感がしたからだ。
側近は懸念を顔に出しながらも、ジャドウに質問を投げかけた。
「マスター、しかし彼らが全滅したらギルドの信頼が落ちます」
ジャドウは深くため息をつき、答えた。
「先遣隊が全滅する可能性も考慮している。そして全滅した場合、このギルドが、いや私の信頼にも瑕が入る事も知っている。勘違いしないでくれよ?私も彼らが全滅する事を望んでいるわけではない。しかし、あの遺跡は危険だ。私には分かる。私は現役時代斥候として活動していたが、この勘は立場が変わっても衰えないらしい。金等級冒険者を投入せず、まずは先遣隊が探索の第一歩を踏み出すことで、得られる情報を最大限活用できると考えている。…私を酷いと思うかね?」
「いえ…。テイランの事を思えば…致し方ないかと」
側近は苦悩の表情を浮かべながらも、ジャドウの考えに納得した。
「くくく、砂漠のオアシス、テイランか。皮肉が効きすぎているじゃないか。もはや資源の枯渇も見えてきているというのに」
ジャドウは乾いた笑いを浮かべた。
ジャドウの見立てでは、もって10年だった。
砂漠化は急速に広がっており、テイランの領域を浸食しつつある。
水資源の枯渇だけではない、植物や果物といったテイランのライフラインも年々その収穫量を減らしている。
砂漠の生物も同様だ。
でなければ地竜などが餌を求めて出てくるものか。
「だが、ここは我らの故郷だ。私は…俺はここで生まれ、育った。テイランが枯れゆくならば他に移れば良いなどとは思えぬ。テイランを立て直す。水が枯渇するならば水を引けば良い。食物が尽きるなら外から持ってくればよい。そのために必要なものは金だ。黄金郷の存在が確かである以上、ここに活路を見出す」
そして彼らは遺跡調査隊の無事を祈りながら、次の行動を検討し始めた。
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