第8話砂漠の街、テイラン⑥

 ◆◇


「あたしはさぁ、時々寂しくなるんだよね」


 ヴィリが突然言い出した。

 ある夜、月が綺麗な晩の事だ。


「どうしたの?」とフラウ。


「あたしは強いけど永遠には生きられないんだ。それはフラウも同じだろ?病気で死ぬか、寿命で死ぬか、もしかしたら殺されるかもしれない。殺し殺されの人生だから文句は言わないけどさぁ、終わり方が選べるなら大切な奴や好きな奴と同時に終わりたいよなあって。あたしはさ、自分が先にくたばって大切な奴が悲しむのも、大切な奴が先にくたばってあたしが悲しむのも嫌なんだけどね」


 うん、とフラウは頷いた。

 確かにそれは嫌だったからだ。


「でも、二人同時に、それも笑顔で死ねるなんてまあ…ありえないだろ?二人同時に寿命で死ぬとかならいいけど、まずそれはありえないんだ。それくらいはあたしも分かるさ」


 そうだね、とフラウは返した。


「時間が停まればいいのにねえ。でもそうしたらこの先楽しい思い出も作れなくなるか」


 ヴィリはそれだけ言うと黙り込んでしまった。

 フラウはヴィリの言葉を反芻し、自分なりに考え、それでもヴィリが憂う寂しさというものを拭う言葉を見つけられないでいた。


 こんなものは考えすぎなのだろう、とはフラウは思う。

 しかし戦いに身を置く者が終わる時がくるとすれば、その形は余り良くないものであろうことも理解できる。


 ヴィリもフラウも強い。

 強いがこの世界で最強の存在ではないだろうし、また不死でもない。

 仮に不死でも殺そうと思えば殺す事が出来る。

 現にヴィリならば月割りの魔剣、ディバイド・ルーナムの写し見を顕現すれば正真正銘の不死者だって殺しきれるだろう。

 絶対の安心、安全なんかこの世界にはないのだ。


 1つ気になる事があった。


「ねえ、ヴィリ姐?」


 ん?とヴィリがフラウに視線を合わせた。


「その大切な奴って私の事?」


 フラウは自分でも恥ずかしい事を聞いているなと思ったが、それでも聞いてみたかったのだ。

 ごまかされるだろうか?否定されるだろうか?そんな不安は抱擁でかき消された。


「自分で考えなよ、あたしはもう寝る」


 ヴィリの頬が少しだけ赤い。

 そんなヴィリを見たフラウは、なんとなく胸が締め付けられる気分になってしまった。


「ねえ、ヴィリ姐。ヴィリ姐が死にかけていたら私も一緒に死んであげる。だからヴィリ姐もそうして。私が死にかけていたら、ヴィリ姐も死んで?」


 それをきいたヴィリは何度か目をぱちくりさせて、ふ、と笑って言った。


「2番目だけは考えてやってもいいよ」


 ヴィリはそれだけ言うと、目を瞑って寝てしまった。

 フラウは暫くヴィリの寝顔を見て、やがて頬へ唇を落とすと自身も目を閉じた。

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