第7話砂漠の街、テイラン⑤

 ◆◇


 ヴィリが目覚めた時にはフラウは眠っている。

 だから抱きついて再びの眠りにつく。


 フラウが目覚めた時にはヴィリは眠っている。

 だから抱きついて…


 こんな調子で覚醒と入眠を繰り返した結果…


 ・

 ・

 ・


「夕方じゃん」


 ヴィリが窓から見える夕日を見ながらぽつりと呟いた。

 ベッドで"そうだね"と適当に返事をするフラウの声がする。


 ぐりぐりと肩をまわし、凝り固まった筋肉をほぐしたヴィリは再び布団に潜り込んだ。


「ヴィリ姐、まだ眠いの?」


 フラウの質問に寝転がりながらヴィリは答える。

「眠くないけど、別に予定があるわけでもないしな。ああ、でも飯か…フラウ、腹減った?」


 ヴィリが聞くとフラウは首を振った。

「ううん、寝てただけだし」


 だなあ、とヴィリは言うなり、フラウを抱き寄せて再び眠った。

 フラウは口をモゴモゴさせるとヴィリの胸元で呟く。


「おはよ、こんにちは、おやすみなさい。私もおやすみ」


 1日の挨拶をまとめて済ませたフラウは、腕を小さく折り畳み、ヴィリの胸下にすっぽり収まるようにして眠った。


 ◆◇


 二人は翌日の朝に同時に目覚めた。


 ヴィリはフラウが起きている事を確認すると、"あれ、頼むよ"と小さい声で言う。

 フラウは頷き、両の掌をヴィリの頬へ当てた。


 氷雪の魔力が循環することで冷たくなった掌が、ヴィリの寝起きの火照りを払いのける。

 フラウがなんとなく編み出した近接戦闘向けの氷術だ。

 主に武器すら振れない超接近戦時で使用する。


 戦闘時において最大出力を以て使用すれば触れた個所をたちまち壊死させるという術だが、出力を調整すれば寝起きの一助となる。


「あ、あー…いいね…あたしはそういう術使えないからさぁ」


 ヴィリがごちると、フラウは少し小首を傾げて質問をした。

「そういえばヴィリ姐も一応魔術師だったよね。連盟っていうのは魔術師の集まりって聞いてるけど、教えて貰えないの?普通の魔術…」


 フラウの言う普通の魔術とは要するにヴィリの"剣"のような術ではなく、世間一般にウジャウジャいる魔導協会の術師が使う様な魔術だ。

 つまり、火を出したり氷を出したりだとか。


 一応ってなんだよ、とヴィリは思うが、尤もな疑問だったので答えを返した。


「あたしは術剣士だよ。基本的には剣士なの。それはともかく、普通の魔術ね…。教えてって言えば教えてくれるとおもうけど、普通の魔術っていうのを使える奴自体余りいないんじゃないかな。ヨハン君とルイゼ、後は…後は…あれ?いないかも」


「ヨハンさんはヴィリ姐のお兄さんみたいな人だって言ってたね。ルイゼさんは…怖い人って言ってた」


 ヴィリは頷く。


「ヨハン君とあたしは連盟に入った時期が近いから。あとはあたしって昔は結構柄悪かったからさぁ、それで連盟の奴らにも喧嘩売ったりしてたんだよね。まああんまり相手にされなかったけど。でもヨハン君は割りとかまってくれて…。そんな感じかな。ルイゼが怖いのはそうだね。喧嘩売っては半殺しにされたりした」


 ふうん、と相槌を打つフラウ。

 多分勉強とかしたくないんだろうなという言葉は飲み込んで、フラウは質問を重ねた。


「そういえばこの前ヴィリ姐はヨハンさんに子供が出来たって言ってたけど」


 ああ、とヴィリは頷く。

 珍しくマルケェスがやってきて、べらべら喋ったとおもったら爆弾を落とされたのだ。

 あの時は驚いたなとヴィリは思う。


「子供って…どうやってつくるの?」


 フラウの唐突な質問にヴィリは一瞬考え込む。

 そして上半身を起こし…


「それは…こうつくるんだ!こう!こう!こう!」


 手をワキワキさせながらフラウの脇下や腹を犬を撫でるようにワシワシとこすりあげた。


「ちょっと!もー!やめて、擽ったいから!」


 きゃあきゃあとわめくフラウをひとしきりさすりあげると、ヴィリはぱたりと横になり再び寝た。

 フラウをからかうのに飽きたのだ。


 あっという間に寝入ったヴィリをぽかんとみつめるフラウのお腹がグゥと鳴る。


 古来より貧困、あるいは別の理由で満足に食事が出来ない哀れな民草が、空腹を紛らわせる為にどうしていたか。

 それは寝る事だ。


 一人で食事をとりに行く気にもなれないフラウは、ヴィリに抱きついて眠った。









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スピンオフ作品全体にいえる事ですが、意識して殺伐臭を消しています。

特にこの作品はだらだらとやまもなければ落ちもない話が続くでしょう。

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