「ミノ!」

「ミノー!どこに行ったのー!」



荒廃しきった暗い街で、子供たちが必死にミノを探している。



『ミノ!』



魔力を使っても、ミノの痕跡は見つからない。

ミノがいなくなってから既にかなりの時間が経過している。



これ以上は危険だ。

アウラ達だけでも帰らせなければ。


子供たちに声をかけようとした瞬間だった。




「うわあああ!!!」



とある子供の悲鳴が聞こえた。

振り向くと、炎を纏った瓦礫がその子に直撃しそうになっていた。



『危ない!』



口より先に、足が動いていた。

瓦礫を切り落として、子供の無事を確認する。



『大丈夫か?怪我はしてないか?』


「うん、ありがとう優しいお兄さん」



間一髪助かったようだ。このままでは周りのみんなも危ない。

アウラに目配せすると、事態を察したようで子供達を家へ誘導してくれた。




「ウォオオオオ………」




僕たちの声におびき出されてしまったのだろう。

《麒麟》が唸り声を上げながらいつの間にか接近していた。




『ここで終わらせないと』




《麒麟》は苦しそうな声を響かせ、近くにある建物をすべてなぎ倒す。

その叫びを聞きながら、刀に力を込める。


最大限の魔力を全身に纏い、首元めがけて振り下ろす。



ギィィン!と甲高い音が鳴るが、前よりはダメージを負っているようだ。


かなり弱っている…?


少し疑問に思ったが、早く弔わなければならない。



ふと視線を下に向ける。

足を狙えば動きを止められそうだ。



躊躇わずもう一度踏み出すと、





「やめて!」





目の前に小さな子供が飛び出してきた。



『うわっ』



振り上げた刀をなんとか違う方向に払った。

子供を見ると、見覚えのある顔立ちだった。




『ミノか?』



「そう、お兄ちゃん、もうやめて」




いなくなっていたミノは、泣きながらそう懇願する。

小さい手を精一杯広げて、僕の前に立ちはだかった。

その後ろには、神がいる。




『お願いだ、そこをどいてくれ』



「やだ!どいたらお兄ちゃん、神様を殺すでしょ」



『そうしなければ、君も死ぬんだぞ』



ミノは胸に手を置いて、その拳をぎゅっと握りしめた。





「神様の声が聞こえるんだ。"痛い苦しい、助けて"って

これ以上痛いことしないで、苦しめないで

お願い、僕の神様なんだ」





その言葉に、胸がチクッと痛んだ。




『大丈夫だよ』




「来ないで!」




ゆっくり、ゆっくりとミノの傍に近寄る。

手を伸ばして、怯える彼の頭にそっと置いた。




『もうこれ以上誰も苦しめない。

神様を、お家に帰すだけだ』




「本当に?」




『ああ、約束する』




ミノは頷いて、その場をそっと離れた。

後ろから合流した子供の声が聞こえる。




これで、誰も死なずに済む。







今度こそ、一発で仕留める。

刀に全ての力を込めて、目を閉じた。





『_____我は神喰い。



主君の命に従い《麒麟》の魂を弔いに来た』






刹那。





「アアアアアアアァアァァァァァ............」





鳴り響いたのは、神の断末魔だった。





刀は《麒麟》の首ごと切り裂いた。




宿主を失った体はすぐさま崩れ落ち、荒廃した町をなぎ倒しながら倒れた。

遠くに落ちてしまった首を持ち上げ、体の元に運んだ。





『どうか、安らかに』





首と頭から光の粒子が集まる。

心臓部に集まるそれは、神の魂。





これが仕事だ。






『いただきます』






その一言で、魂を喰らい尽くした。

嫌な味だ。



絶望、苦痛、後悔。

遂げられなかった想いが禍々しく歪められ、魂を黒く染めた。



温厚な神をここまで変えてしまう、災厄。

《エクリプス》は僕たちの全てを奪っていった。


もちろん、この神も被害者だ。





『ご馳走様でした』




手を合わせる。


命を弔う。

しかし、傍から見ればただの神殺しだ。



それでも、僕はこの生き方を選んだ。

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