六
「ミノ!」
「ミノー!どこに行ったのー!」
荒廃しきった暗い街で、子供たちが必死にミノを探している。
『ミノ!』
魔力を使っても、ミノの痕跡は見つからない。
ミノがいなくなってから既にかなりの時間が経過している。
これ以上は危険だ。
アウラ達だけでも帰らせなければ。
子供たちに声をかけようとした瞬間だった。
「うわあああ!!!」
とある子供の悲鳴が聞こえた。
振り向くと、炎を纏った瓦礫がその子に直撃しそうになっていた。
『危ない!』
口より先に、足が動いていた。
瓦礫を切り落として、子供の無事を確認する。
『大丈夫か?怪我はしてないか?』
「うん、ありがとう優しいお兄さん」
間一髪助かったようだ。このままでは周りのみんなも危ない。
アウラに目配せすると、事態を察したようで子供達を家へ誘導してくれた。
「ウォオオオオ………」
僕たちの声におびき出されてしまったのだろう。
《麒麟》が唸り声を上げながらいつの間にか接近していた。
『ここで終わらせないと』
《麒麟》は苦しそうな声を響かせ、近くにある建物をすべてなぎ倒す。
その叫びを聞きながら、刀に力を込める。
最大限の魔力を全身に纏い、首元めがけて振り下ろす。
ギィィン!と甲高い音が鳴るが、前よりはダメージを負っているようだ。
かなり弱っている…?
少し疑問に思ったが、早く弔わなければならない。
ふと視線を下に向ける。
足を狙えば動きを止められそうだ。
躊躇わずもう一度踏み出すと、
「やめて!」
目の前に小さな子供が飛び出してきた。
『うわっ』
振り上げた刀をなんとか違う方向に払った。
子供を見ると、見覚えのある顔立ちだった。
『ミノか?』
「そう、お兄ちゃん、もうやめて」
いなくなっていたミノは、泣きながらそう懇願する。
小さい手を精一杯広げて、僕の前に立ちはだかった。
その後ろには、神がいる。
『お願いだ、そこをどいてくれ』
「やだ!どいたらお兄ちゃん、神様を殺すでしょ」
『そうしなければ、君も死ぬんだぞ』
ミノは胸に手を置いて、その拳をぎゅっと握りしめた。
「神様の声が聞こえるんだ。"痛い苦しい、助けて"って
これ以上痛いことしないで、苦しめないで
お願い、僕の神様なんだ」
その言葉に、胸がチクッと痛んだ。
『大丈夫だよ』
「来ないで!」
ゆっくり、ゆっくりとミノの傍に近寄る。
手を伸ばして、怯える彼の頭にそっと置いた。
『もうこれ以上誰も苦しめない。
神様を、お家に帰すだけだ』
「本当に?」
『ああ、約束する』
ミノは頷いて、その場をそっと離れた。
後ろから合流した子供の声が聞こえる。
これで、誰も死なずに済む。
今度こそ、一発で仕留める。
刀に全ての力を込めて、目を閉じた。
『_____我は神喰い。
主君の命に従い《麒麟》の魂を弔いに来た』
刹那。
「アアアアアアアァアァァァァァ............」
鳴り響いたのは、神の断末魔だった。
刀は《麒麟》の首ごと切り裂いた。
宿主を失った体はすぐさま崩れ落ち、荒廃した町をなぎ倒しながら倒れた。
遠くに落ちてしまった首を持ち上げ、体の元に運んだ。
『どうか、安らかに』
首と頭から光の粒子が集まる。
心臓部に集まるそれは、神の魂。
これが仕事だ。
『いただきます』
その一言で、魂を喰らい尽くした。
嫌な味だ。
絶望、苦痛、後悔。
遂げられなかった想いが禍々しく歪められ、魂を黒く染めた。
温厚な神をここまで変えてしまう、災厄。
《エクリプス》は僕たちの全てを奪っていった。
もちろん、この神も被害者だ。
『ご馳走様でした』
手を合わせる。
命を弔う。
しかし、傍から見ればただの神殺しだ。
それでも、僕はこの生き方を選んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます