七
神が亡き今、この国の天候は随分落ち着いた。
茹だるような熱気は過ぎ去り、カラッとした穏やかな暖かさに変わった。
僕はアウラとミノたちの安否を確認する為、彼らの家を訪れた。
「あ、お兄ちゃん!」
入口でアウラが出迎えてくれた。
『仕事は終わった。みんな無事か?怪我人は?』
「大丈夫。お兄ちゃんのおかげで全員無事だよ」
その言葉を聞いてほっとした。
だが、アウラは気まずそうに俯く。
「ただ……」
『どうした?』
アウラが言葉に詰まっていると後ろからミノが飛び出してきた。
「お兄ちゃん!」
『ミノ、大丈夫か?』
「元気だよ?」
よく見ると、爛れていた皮膚が跡も残らず綺麗に治っている。
麒麟が亡くなった影響だろうか。
そうだとしたら、他の信者も
『ミノ』
「なに?」
ミノの綺麗な手を撫でる。
『神様はおうちに帰ったよ。
みんなの病気もすぐに治る。もう声も聞こえないだろう。
心配しなくていい』
そう言うと、予想に反してミノは不思議そうな顔をした。
まるで僕の言ったことが理解できない様に。
「ごめん、なんの事?かみさま?
あと、ぼく病気になんかなってないよ」
『……え?』
ミノは、記憶が無くなっているのだろうか。
いや、だとしたらミノだけでは無い。
もしかして、信者全員_______
「ミノ」
「なあに?」
「お姉ちゃんと一緒にご飯の準備しよっか」
「はあい。お兄ちゃんまたね」
ミノは理解が追いつかない僕に手を振り、別の部屋に消えていった。
アウラはその様を近くで見て、残念そうに首を振った。
「他の信者の子も、神と病気に関しての記憶が全部無くなってた。
でも、これで良かったのかもしれない」
苦虫を噛み潰したような、嫌な味がまた甦ってきた。
あの優しい神は、どこまで自己犠牲を働けば気が済むのだろうか。
熱心に信仰していた者ほど、神の亡き後苦しむだろうと
記憶ごと自分を消し去ったのだろう。
報われないこの国も、神も
なによりこんな世界にしてしまった災厄に
燃えるような怒りを覚えた。
自分のしていることは正義だとは言えない。
だが、やらなくてはならない事はあるのだと
今一度はっきり自覚した。
この感情を忘れてはならない。
僕は息を吸って、やるべき事を思い出した。
目の前のアウラにお礼を言う。
『アウラ、ありがとう。
これから大変だと思うが、強く生きてくれ』
「こちらこそ、助けてくれてありがとう。
お兄ちゃんがいなかったら全員死んでたよ。
____もう行くの?」
その問いに対して、小さく頷く。
アウラはニコッと笑って頭を下げた。
「気をつけて、行ってらっしゃい」
「さようなら」では無い。
いつでも戻ってきていいということだろう。
小さな子供の気遣いに、胸がじんわり温まった。
『ああ、行ってくるよ』
今度は振り返らない。
手を挙げて、この乾いた大地を踏み出した。
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