五
枯れ果てた大地に、ぽつりと取り残された寺。
その地でヨルは一人、瓦礫を運んでいた。
あの神を弔ってやらなければならない。
だが、神が還る唯一の場所が崩れ落ちていた。
きっと信仰されていた時には、沢山の人が訪れて
数え切れない程の祈りを聴いてきたんだろう。
もう今は、見る影もない。
このままでは誰にも知られず、静かに朽ち果てていくだけだ。
自分の家がこうなってしまっては、還るにも還れないだろう。
今にも、《麒麟》の呻く声が聞こえる気がする。
その時、タッタッタッと足音が聞こえた。
子供の足音だ。
「お兄ちゃん!」
振り向くと、そこにたっていたのはアウラだった。
後をつけてきたのだろうか。
『どうしたんだ?外は危ないぞ』
「ここ、あいつの家だよね?僕も手伝うよ」
アウラはそう言うと、一緒に瓦礫を片付け始めた。
『…《麒麟》が嫌いなんじゃなかったのか』
「嫌いだよ、嫌いだけど。
還る場所がないと可哀想だから」
『そうか』
彼なりの、優しさなのだろうか。
それからはしばらく無言で、二人手を動かしていた。
数時間が経ち、ようやく原型を留めてきた。
簡単な石碑を作り、手を合わせる。
どうかあの神と、この地に平穏が訪れますように。
その平穏が得られるかどうかは、全て己にかかっている。
木陰で休んでいるアウラに『おつかれ』と手を差し伸べようとした瞬間。
遠くから声が聞こえた。
アウラの家にいた子供の一人だ。
相当焦っているようで、息も絶え絶えになっていた。
「ア、アウラ!大変だ!」
「どうした?何があった?」
尋常ではない様子にアウラも戸惑っている。
子供は半分泣きながら答えた。
「ミノがいなくなった」
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