四
アウラは、悲しそうにそう言った。
『でもあの神は、《麒麟》はまだ生きているだろう』
「もう死んだも同然だよ。あいつさえ、あいつさえ早く死んでくれれば…」
そこで、言葉を詰まらす。
一国の主神を、"あいつ"呼ばわりするとは。
ただ、この現状は珍しくない。
災厄によって神の信仰は失われつつある。
「あ、ミノ」
返答に困っていると、たった1人、こちらに駆けてくる子供がいた。
アウラはその子を「ミノ」と呼んだ。
ミノは今にも泣きそうな震え声で、アウラの服を掴みながら言った。
「ねえ、僕、かみさまが死んだら僕も死ぬんでしょ?
かみさまにしねってことは、僕にも死んでほしいってこと?」
アウラの瞳が、揺れたように見えた。
「…ちがう!!そんなことない、違うんだミノ、ごめんね…」
彼は掠れた声で、ごめんねと連呼しながら
ミノを抱きしめた。
ミノの腕は、見るに堪えない火傷の様なモノが皮膚を覆っていた。
「ミノ、お客さんいるんだからダメだよ!」
「ごめんね、お話終わったら遊ぼうね
いっておいで」
ミノを呼びに来た複数の子供たちが、不安そうな顔で僕を見つめていた。
アウラはもう一度彼を強く抱き締め、部屋の入口へと連れていった。
そして僕に向き直すと、ポツポツと語ってくれた。
「僕たちの神様は、災厄で亡くなった…はずなんだけど
加護を持たない亡骸として、燃えながらずっとずっと徘徊してるんだ。」
『…まるでゾンビだな』
「うん。それと同時に奇病が流行りだしてね
最初は小さかった火傷が全身に広がって、最後は焼け焦げて死ぬ病気。
原因も治療法も分からない。でも共通してるのは、災厄の後も《麒麟》を信仰してる人にだけかかる病気ってこと」
『神の信仰を捨てきれない人達が、神と一緒に燃えて亡くなっていってる…?』
「そう、ミノも…両親が熱心な信仰者だった。
どっちも焼け焦げて死んで、とうとうあいつも」
アウラはそこで嗚咽混じりに呟く。
「信仰を捨てさえすれば、治るんだ
でもイヴリスの民にとって、信仰を捨てることは」
『人生を捨てることと、同じ?』
僕のセリフに、彼は頷いた。
「ミノも、他の子供だって、自分が苦しいのは神のせいだって知ってるのに、信じるのをやめようとしない。健気でいい子なんだ。
なのに、なのに……
あいつは、神なんかじゃない
自分を信じる民と心中しようとしてる死に損ないだ」
アウラの語気が強くなる。
目の前で、どれくらいの人が死んでいったのだろうか。
この国で思った以上に悲惨な事が起きている。
早くあの神を鎮めなければこの子達も……
『わかった。ありがとう。僕が何とかする』
「え?お兄ちゃんが?」
アウラは訝しげにこちらを見る。
『弔いの為にここに来た。
何とかできるのは…多分僕しかいない』
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