アウラは、悲しそうにそう言った。



『でもあの神は、《麒麟》はまだ生きているだろう』


「もう死んだも同然だよ。あいつさえ、あいつさえ早く死んでくれれば…」


そこで、言葉を詰まらす。


一国の主神を、"あいつ"呼ばわりするとは。


ただ、この現状は珍しくない。

災厄によって神の信仰は失われつつある。



「あ、ミノ」


返答に困っていると、たった1人、こちらに駆けてくる子供がいた。


アウラはその子を「ミノ」と呼んだ。


ミノは今にも泣きそうな震え声で、アウラの服を掴みながら言った。



「ねえ、僕、かみさまが死んだら僕も死ぬんでしょ?

かみさまにしねってことは、僕にも死んでほしいってこと?」



アウラの瞳が、揺れたように見えた。


「…ちがう!!そんなことない、違うんだミノ、ごめんね…」


彼は掠れた声で、ごめんねと連呼しながら

ミノを抱きしめた。


ミノの腕は、見るに堪えない火傷の様なモノが皮膚を覆っていた。



「ミノ、お客さんいるんだからダメだよ!」


「ごめんね、お話終わったら遊ぼうね

いっておいで」


ミノを呼びに来た複数の子供たちが、不安そうな顔で僕を見つめていた。

アウラはもう一度彼を強く抱き締め、部屋の入口へと連れていった。



そして僕に向き直すと、ポツポツと語ってくれた。


「僕たちの神様は、災厄で亡くなった…はずなんだけど

加護を持たない亡骸として、燃えながらずっとずっと徘徊してるんだ。」


『…まるでゾンビだな』


「うん。それと同時に奇病が流行りだしてね

最初は小さかった火傷が全身に広がって、最後は焼け焦げて死ぬ病気。

原因も治療法も分からない。でも共通してるのは、災厄の後も《麒麟》を信仰してる人にだけかかる病気ってこと」


『神の信仰を捨てきれない人達が、神と一緒に燃えて亡くなっていってる…?』



「そう、ミノも…両親が熱心な信仰者だった。

どっちも焼け焦げて死んで、とうとうあいつも」



アウラはそこで嗚咽混じりに呟く。



「信仰を捨てさえすれば、治るんだ

でもイヴリスの民にとって、信仰を捨てることは」


『人生を捨てることと、同じ?』



僕のセリフに、彼は頷いた。



「ミノも、他の子供だって、自分が苦しいのは神のせいだって知ってるのに、信じるのをやめようとしない。健気でいい子なんだ。


なのに、なのに……



あいつは、神なんかじゃない


自分を信じる民と心中しようとしてる死に損ないだ」


アウラの語気が強くなる。

目の前で、どれくらいの人が死んでいったのだろうか。



この国で思った以上に悲惨な事が起きている。

早くあの神を鎮めなければこの子達も……



『わかった。ありがとう。僕が何とかする』


「え?お兄ちゃんが?」


アウラは訝しげにこちらを見る。



『弔いの為にここに来た。

何とかできるのは…多分僕しかいない』

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