三
自らの不甲斐なさと、あまりにも惨い神の姿が目に焼き付いて、心臓の音が止まらなかった。
静かな街にたどり着くと、ようやく一息つけると安堵したのか、胸の鼓動が収まった。
神の悲鳴は、もう聞こえない。
俯きながら歩いていると、風の音すらしない、閑静な街に辿り着いた。
ここもすっかり荒れ果てている。人が居着いている気配が全くない。
その時、何者かが背後を通る音がした。
『!?』
振り向くとそこには誰もいない。
が、よく目を凝らすと
涙目の少年が建物に隠れながらこちらの様子を伺っていた。
『…誰だ?』
話しかけると、少年はビクッと体を震わせて硬直した。
驚かせてしまったか。少し悪い気がして警戒を解き、朗らかな口調で話す事にした。
『ここに住んでいる子か?怪我はないか?
少し聞きたい事があるんだが、聞いても大丈夫か?』
少年は話のわかる人物だと認識してくれたのか、ゆっくりこちらに近づいてきた。
「お兄ちゃん、悪いやつじゃない?」
『ああ、少なくとも君に危害を加えたりしない』
「…食べ物が欲しい、食べ物をくれたらおはなししてもいい」
少年はそう言って痩せ細った体を撫ぜた。
何日もまともな食事をしていないのだろう。
胸が苦しくなる。本来人に分け与えるものでは無いが、こんな子供を前に断る訳にも行かない。
『ごめん、少ししかないんだ
これだけでも受け取ってくれるか?』
「ありがとう、十分だよ」
少年は不器用な笑顔でそう言うと、路地裏に駆けていき、こちらを見て手招きした。
一応警戒しながら少年の後ろをついて行く。
そのまま地下へと進んで行った。
暗くて埃臭い。少年は、ほとんど何も見えない道を小さなロウソクで灯しながら歩いていた。
「外は危ないから、こんな所でごめんね」
奥に入ったところに小さな部屋があり、
そう言いながら僕を案内してくれた。
腰掛けるだけでギーッと音がする椅子に少々驚きながらも、周りを見渡す。
部屋の入口には少年と同じ背丈の子供が何人か、こちらを覗いていた。
少年はその子供たちに笑いかけると、しーっと黙らせる仕草をした。
「ここは僕たちの隠れ家なんだ
助け合いながら暮らしてる。
みんなお兄ちゃんが気になるだけで、悪い事はしないから大丈夫だよ」
『ああ、ありがとう』
「それで、聞きたいことってなに?」
少年はそう言いながら、さっき僕が分け与えた食料を子供たちに配っていた。
自分のためじゃなく、子供たちのために。
少し、目頭が熱くなる。
『僕の名前はヨル。君の名前は?』
「アウラ。」
『ありがとうアウラ。君は優しい子なんだね』
そう言うと、アウラは照れ臭そうに笑った。
『僕はここの神に用があって外の国から来た。
一体……この国に、「華岬」に何があったんだ?』
アウラの目は、じっとこちらを見つめている。
「___神様も、鬼も人も
みんなこの国を見捨てたんだ」
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