平和の国
一
足を踏み入れたその国は、地獄のような有様だった。
大地は焼けるように暑く、陽炎が揺らめいている。
かつては平和を重んじる穏やかな国だったという。
神が死んでからというもの、町は荒れ、人が住んでいた面影も無く混沌としていた。
「おい、そこのお前」
砂漠のように干からびた街を歩いていると、後ろから声をかけられる。
「持ってるもん全部ここに置いていけ。
痛い思いしたくなかったらな」
物騒なものを掲げた輩に、取り囲まれる。
《略奪者》だ。
『構っている暇は無い』
「あ?何余裕ぶってんだ、早くしろ」
男はニヤリと笑うと、僕の顔をジロジロと見て言う。
「そうだ、その角も置いていけ。
そんだけ立派な鬼人の角は高く売れる」
男たちはそう言ってジリジリと詰め寄ってくる。
どうやら僕の角を狙っているらしい。
角は鬼人の力の源であり、魔力の顕現。
今ここで奪われてしまえば、吹雪の中丸裸で投げ出されるのと同じだ。
無法者とは言え、同胞に手出しはしたくない。
小さく息を吐いて鞘に触れた。
刹那、嗚咽と共に崩れ落ちる。
床にうつ伏せになる彼らを尻目に、歩を進めた。
すると、微かに地鳴りがする。
更に、そう遠くはないであろう方向から動物の鳴き声がした。
いや、これは___
この地の《神》の声では無いのか?
無意識に歩みが早くなる。
そして駆け足気味に、その場所へと向かった。
「__……ギイイィ!!」
悲哀と怨みに満ちた甲高い鳴き声。
そして共に聞こえる破壊音と衝撃。
間違いない。
かつてこの地を治めていた、暴走する《神》の悲鳴だ。
胸が締め付けられるような絶叫。
どれだけの痛みを抱えながら、自らが愛した土地を壊して回っているのだろうか。
そう思うと、走り出さずにはいられなかった。
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