平和の国

足を踏み入れたその国は、地獄のような有様だった。

大地は焼けるように暑く、陽炎が揺らめいている。


かつては平和を重んじる穏やかな国だったという。

神が死んでからというもの、町は荒れ、人が住んでいた面影も無く混沌としていた。




「おい、そこのお前」


砂漠のように干からびた街を歩いていると、後ろから声をかけられる。


「持ってるもん全部ここに置いていけ。

痛い思いしたくなかったらな」


物騒なものを掲げた輩に、取り囲まれる。

《略奪者》だ。


『構っている暇は無い』


「あ?何余裕ぶってんだ、早くしろ」


男はニヤリと笑うと、僕の顔をジロジロと見て言う。


「そうだ、その角も置いていけ。

そんだけ立派な鬼人の角は高く売れる」


男たちはそう言ってジリジリと詰め寄ってくる。

どうやら僕の角を狙っているらしい。


角は鬼人の力の源であり、魔力の顕現。

今ここで奪われてしまえば、吹雪の中丸裸で投げ出されるのと同じだ。


無法者とは言え、同胞に手出しはしたくない。

小さく息を吐いて鞘に触れた。




刹那、嗚咽と共に崩れ落ちる。

床にうつ伏せになる彼らを尻目に、歩を進めた。


すると、微かに地鳴りがする。

更に、そう遠くはないであろう方向から動物の鳴き声がした。




いや、これは___



この地の《神》の声では無いのか?




無意識に歩みが早くなる。

そして駆け足気味に、その場所へと向かった。



「__……ギイイィ!!」


悲哀と怨みに満ちた甲高い鳴き声。

そして共に聞こえる破壊音と衝撃。


間違いない。

かつてこの地を治めていた、暴走する《神》の悲鳴だ。


胸が締め付けられるような絶叫。

どれだけの痛みを抱えながら、自らが愛した土地を壊して回っているのだろうか。


そう思うと、走り出さずにはいられなかった。

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