第6話:別れと新しい出会い

「出てきたか。心中したかとおもったぞ?」


 木陰から聞こえる女の声。

 外に出ると、俺は光に照らされた。雨が木々の葉を揺らす音がする。


「1人か? ……なるほど、投降するわけではないらしいな」


「フィアには手を出さないで。できないなら殺すよ」

 木陰を狙うと、冷ややかな笑い声が聞こえた。

「馬鹿か? 洞窟を爆破すると言ったはずだ。もう1人の命は我々が握っている」


「……いや、できないはず」

「ほう?」


「目的はフィアでしょ? だから、殺せない」

「どうしてそう思う」

「孤児院のみんなは殺したのに、フィアに対してだけは脅すだけ。違う? 軍隊さん」


 わざわざこんな所まで追ってくるとは、なにか目的があるに違いなかった。そして、この統率の取れた動きはどこかの軍隊で間違いない。


「ククッ……、冷静な思考力を備えているな。しかし貴様の言う通りだとしても、お前を殺した後で連行すれば良い話だ」

「だったら、刺し違えてでも全員殺す」 


「ハッハッハ! やはり貴様は馬鹿だ! だがそれでいい。良かろう! 少女には手を出さない。その代わり、貴様に働いてもらう。……1人のために屍を積み上げる覚悟はあるか?」


 そんなこと、決まっている。  


「何でもするよ。フィアを守るためなら……」


 視界が暗転する。同時に、遠くで衝撃を感じた。

 

「よし。連れて行け。最優先で治療だ」


 最後に見えたのは、こちらを覗き込む漆黒の隻眼だった。


 ★


 私は、何をしているんだろう。


 何をすれば良いか分からない。

 

 別れ際に伝えられた一言で頭の中がぐちゃぐちゃになって、ルワが連れて行かれているのに何もできなかった……。


 ――わが封印を解きし者よ。


 分からない。自分がルワのことをどう思っているのか。ただあのとき、自分の全てを任せてしまってもいいと思ってしまったの。


 ――我が封印を解きし者よ、何を望む?


 おかしい。こんなの友達に思うことじゃない。

 私はただ、ルワとずっと友達で居たかったのに……。


 ――聞こえるか?


「ああ、もう何!? 話しかけないで!!」


 さっきから頭の中に響く声にムカついて振り返る。けれど、そこにあったのは紫色……水晶みたいな岩。

 何故か燃えている洞窟の残り火が反射して、怪しく光っている。


 ――か弱き少女よ、何を望む?


「弱い!? 私が弱いですって……!?」


 ――あ、いや。


「私は弱くない! けど、それ以上にルワが強かったの! だから私はそれに甘えちゃって……」


 ――あの少年が、好きなのか?


「違う! ルワと私は友達なの……。ルワも、私も、おかしいのよ!」


 ――友達? なんだそれは。まあしかし、なにもおかしい事ではない。繁殖は生物として当然の感情だ。


「そんなものと一緒にしないで!」


 ――男を手に入れたいのならそういえば良いものを。


「だから違うって言ってるでしょ!?」


 ――ならば、お前の望みはなんだ?


「望み……?」


 ――金、は違うな。力、も少し違うか? ……やはり男か。


「違う……違うわ……」


 ――あ、ちょ、なぜ泣く。そうなら素直にはいと言えばいいだろう?


「私とルワがこ……、恋人になったとして、そうしたら誰が私の”友達”になってくれるの?」


 ――うわ、めんどくせぇ。


「なによ! ……ああっ! 分かったわ! そうすればいいのよ!」


 ――叶える望みは決まったか?


「ええ!」


 ――いや、まて。嫌な予感がする。いいか? 叶えられる望みは1つだ。慎重に……。


「あなた、私の友だちになりなさい!!」


 ――うぉぉぉぉ! まて、ちょっと待て! なんだそれ、私の尊厳はどうなっ。


 紫色の光が全身を包み込む。


 ああ、これだ。この温かさが、私がずっと欲しかったもの。

 

 光が収まってまぶたを開くと、そこにいたのは……カラス?


「な、なんじゃこりゃあああああ!」


 くちばしをパカリと開けて、人の言葉を絶叫するカラス……というには羽毛があまり黒くない。すこし紫っぽくて、艶がある。


「私が……私がこのような下等生物の姿に……」


「良いじゃない。似合ってるわよ、かーくん」


「か、かーくん!? まさかカラスか取ったのか? 許さん、許さんぞ……。ならばお前をここで始末して……、あれ? 何故だ、なぜ魔術が使えない」


「友達を殺す人がどこにいるのよ」


「何だそれは、ふざけるなァァァァァァ!」


「あ、痛っ痛いわよ!?」


 くちばしで私の足をつついてくるかーくん。ちょっとかわいい。


「フーっ、フーっ。ならばせめて、せめて1つ望みを聞いてくれないか」


「何?」


「私にも名前がある。”カラドリウス”だ。せめてそう呼んでくれ」


「だったらなおさらかーくんで良いじゃない。友達の呼び方は相手が決めるものよ?」


「クソが……。だったら私も、貴様のことは好きに呼ばせてもらう。」


「なんて呼んでくれるの?」


「そうだな……ユノというのはどうだ?」


「いい名前じゃない! でも、何から取ったの」

「それは……、まあ良いではないか」


 これが、私とかーくんの出会い。

 友達は手に入れた、これで……。

 









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