第5話

「おまえがあんな大音を立てたりしなければ、こんな事にはならなかったんだぞ」


「重かったから仕方ないだろ! おまえこそ、真っ先に逃げ込みやがって。どうして戦わなかった!」


「おまえだってすぐに飛び込んできたじゃないか!」


「ちょっと、静かにしてよ。あなた達の声の反響で周囲の音が聞こえないでしょ」


 言い争うドンジーとピコをクラレスがたしなめた。伍長は先に進んでいる。


 コンクリートとかいう旧時代の建材で形成された、円柱の中を通した形状の通路は、足下に水が流れていた。その水はひどく汚染された水であり、生物にとって有益ではない。


 流れる汚水を見つめながら伍長が声を発した。


「誰か、この中に歴史に詳しい者はいるか」


 クラレスが重そうな鎧の中から手をあげる。


「戦争前は博物データセクションの古代史コーナーでコンパニオンをしていました。多少の知識はあります」


 汚水が流れてくる先に顔を向けて、伍長は尋ねた。


「この構造物は何だ」


「おそらく、古代都市で使われていた下水道でしょう。生活排水を都市から郊外の処理施設に流すための」


 伍長は予想していたようだった。驚いた様子もない。先を覗いたまま、伍長は冷静に再度尋ねた。


「だとすると、千年近く前の話だな。それなのに今も汚水が流れてきているのは何故だ」


 状況を察したドンジーが一歩前に踏み出てレールマシンガンを構える。ピコは項垂れて腰のハンドガンに手を掛けた。


 クラレスが震える声で伍長の質問に答えた。


「地上の遺跡の真下の、地下の生活インフラが稼働している可能性があります。つまり……」


 ライトを投げ捨てた伍長はレールマシンガンの銃口を汚水の上流方向に向けた。呼応してドンジーもマシンガンを同方向に構える。ピコは右手に握ったハンドガンの銃口を自らのこめかみに当てた。


「駄目だ。もう逃げ場はない」


 ピコは引き金を引いた。体は膝を折りクラレスの足下に倒れる。動かなくなったピコをじっと見つめながら、クラレスは一枚ずつ自分の鎧をはずしていった。鎧の下には何も装着していない。鎧をはずしていくにつれて、クラレスの美しい裸体は徐々に露わになっていった。


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