第2話

 兵士たちは正体不明の来訪者たちと戦っていた。


 奴らは乗り物に乗ってやってきた。突如として地球の衛星軌道上に巨大な宇宙船が姿を現したのだ。その巨大宇宙船から小型の宇宙船が――といっても全長が十キロメートル以上の船だが――何十隻と放たれると、それらは大気圏を突破し、青空の下に飛来した。


 各宇宙船が、まるで何かを探索するかのように地球全域を飛び回ること約一年、それらはこの星にある全ての古代都市遺跡の上に浮上したまま停止した。


 勿論、ここまでが平穏に進んだ訳ではない。巨大宇宙船の船影が月の近くで捕捉された時点で、全地球統治センターのセントラルブレインは、それが侵略的軍事行動であると分析し、直ちに防衛活動に着手した。宇宙船に対して衛星から粒子反応爆弾を撃ち込んだり、超電磁エネルギー砲を発射したりしたが、その宇宙船には全く通用しなかった。重力圏外の防衛戦線を易々と突破されると、統治センターは侵略者排除のためのプロトコルを発動させ、全地球上の使用可能な兵力を総動員して、大気圏下の各地において、低速で空中を移動する敵の宇宙船と壮絶な戦闘を繰り広げた。


 軍事プロトコルにより組織された効率的な軍隊と最新鋭の破壊兵器、高度な計算によって導き出された緻密な作戦、そして兵士たちの熱い魂と尊い犠牲によって、宇宙船撃墜のための激戦をこの一年間続けることができた。しかし、未だに一隻も撃墜できていない。


 やがて、突如として移動をやめた宇宙船は、古代都市遺跡の真上から、遺跡の周囲に広がっている全ての環境維持型生活都市――数百年をかけて建設してきた地上の理想郷――を何らかの兵器によって一瞬で焼失させ、灰だらけの平原へと変貌させてしまった。


 生き残った現地の兵士たちは、追加投入される応援部隊を待ちながら、焼け野原で敵と戦うことになった。日本での戦闘に投入されたトゥエジェランジー・トゥレジェクローネ伍長も世界各地で戦っている他の兵士たちと同様に、焼け焦げた大地に掘った塹壕に身を隠し、宇宙船から降りてきて白兵戦を仕掛けてきている敵の兵士たちと戦っていた。多くの疑問を抱きながら。


 まず、敵の武器の正体が分からない。何らかのエネルギー体である小径の火球を高速で飛ばしてくるが、その原理は全く分からない。ただ、それが体に当たれば、強烈な熱と衝撃で回復不可能なほどの深刻なダメージを受けてしまうという残虐兵器であることは確かだった。


 敵の防具も強靭だ。こちらの氷結弾をものともしない。氷結弾は空気中の水分を触媒と共に超硬度で凍らせて作る弾丸だ。威力は岩をも砕くほど強力で、それをレールマシンガンの中で生成し超電導放電で飛ばして敵に撃ち込んでいる。したがって弾切れしない。


 このような高性能兵器を使って連続して攻撃しても、敵の防具には全く歯が立たなかった。敵が身に付けている防具は何らかの熱膜で覆われているらしく、その下の鎧の素材もかなりの硬度で、氷結弾が当たっても瞬時に溶けて跳ね返される始末で、氷結弾での攻撃は全く無意味だった。勿論、金属製の軟弱な弾丸など話にならない。


 通信能力も敵の方が上手うわてだ。かろうじて生き残っている多次元インターネット環境を利用して届いた、中央作戦指揮所・セントラルセンターからの最後の指令によれば、敵の通信傍受能力は相当に高度だということである。こちらの通信方法は全て把握されていて、暗号も完全に解読されており、情報は筒抜け状態だそうだ。よって、その最後の指示に従い、現在、兵士たちは声でのみ互いにコミュニケーションを取っている状況である。


 このような状況の中、伍長たちは圧倒的な劣勢を強いられ、援軍の到着を待つ間、敵の攻撃をかわしながら逃げるようにして塹壕の中を移動するしかなかった。

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