第1594話、船

「っかしいなぁ。アイツがあんなに暴れる事なんて滅多にねえんだが」


 新しく繋げられた鳥を撫でつつ、先程の暴れように首を傾げる男。

 余程精霊にはい回られたのが気持ち悪かったんだろうな。


『やったー! おっきな羽ー! これは素晴らしい! ふかふかだ―!』

「すっごいねー。ふわふわだねー」


 そして鳥が暴れ倒した事で、落ちた羽を拾う一人と一匹。

 満足気なシオ達の背後には、これまた優しい笑みで見つめるヨイチ。

 この間の国での経験がリセットされたのでは、と思う程に子供化している。


 いや、警戒する必要が無ければ何時も通りになっただけか。


『これも良いね』

「こっちのほうが、おおきいよ?」

『でもこっちは羽毛の欠けが少なくて綺麗だよ?』

「ほんとだー。けなみがきれーだねー」


 そして拾った羽を一枚一枚、どれが良いか話し合っている。

 俺にはさっぱり解らん。どれも同じにしか見えんぞ。

 趣味人の会話は大体興味の無い人間には全く解らん領域になるな。


『これだー!』

「シオはこっちー!」


 そしてお互いにそれぞれ気に入った物を掲げ、いそいそと鞄に仕舞い出した。

 また鞄の中に羽が増える。その鞄結構デカいのに、羽だけで1割占めてるんだが。

 何枚集めて来るんだコイツ等は。羽用の袋迄用意して貰いやがったし。


 そのうちシオ用の鞄でも買うか。コイツの着替えも有る訳だしな。

 いい加減、それぞれの荷物は自分達で持たせるようにしよう。

 小銭以外俺が預かるのも意味が解らんしな。


 ・・・あ、そういえばさっきの金、シオの分もあったんだった。忘れてた。

 まあ良いか。別に本当に無一文になった訳でも無いし、後で返せば問題無い。


「シオ、そろそろ行くぞ。準備が済んだらしいからな」

「おう、待たせたな。まあソッチの嬢ちゃんは待ってねえと思うが。一応ソレ、本来は拾って集めて売り物にする羽根なんだぜ?」

「うっ!? ご、ごめんなさい、シオ、かってに、ひろって」

『え!? 拾っちゃ駄目なの!? 落ちてるのに!?』


 ふむ、売り物の羽か。何に使うのか・・・この手触りなら布団の類に使えるか。

 頑丈そうだし羽ペンでも良さそうだが、何にせよ無料提供する物じゃないと。

 シオはワタワタとしながら羽を差し出して謝るが、そんな彼女の頭に男の手が乗る。


「まあ外で走る時は落ちても拾えねえから、その分だと思ってやっても良いけどよ。次は勝手に拾わねえようにな。後、内緒な。聞かれても街道で拾ったって言っとけ」

「っ! うっ! ありがとー!」

『やったー!』


 一転してぱあっと笑顔になるシオの頭をガシガシ撫でる男。

 女の子の頭を撫でる手つきでは無い辺りが、海賊らしい雑さだと思う。


「随分好意的だな」

「別に敵対する必要もねえだろ。態々よ。つーかお前なら兎も角、こっちの嬢ちゃんはどう見てもただの子供じゃねえか。ガキに意味も無く意地悪する程腐っちゃいねえよ。ほら、早く乗れ」


 当然ながら俺への態度は変わらず、だが俺の連れだからと纏めては見ないらしい。

 それでも若干ヨイチへの警戒が見えるが、これはもう仕方のない事かもしれんな。

 例え中身が子供だと言ったとしても、図体が自分よりデカい存在は警戒してしまう。


 むしろ図体のデカい子供と考えてしまうと、大人より怖くてたちが悪い可能性が有る。

 子供は理性が薄いからな。力が有るとその力を我が儘に振るいがちだ。


 そうしてやっと車に乗って移動し、暫くすると港が見えて来た。

 住宅街から一段低い場所に港を作っているからか、船が並んでいるのが良く見える。


「わー、ふねいっぱーい!」

「すごい、たくさん」

『あんまり大きいのないねー?』


 そうか? 結構デカい船が多いが。コイツの大きいの基準が何基準なのやら。

 船は複数種類あり、帆船は当然の事、大きめの手漕ぎの船も、両方のも有るな。

 どちらも付いていない船も有るが、あれはいったいどうやって動かすのだろうか。


 小舟ならまだ解るが、どう見ても荷物を積み込める大きさの船なんだが。


「あそこがカシラの屋敷だ」


 ふいに男がそう告げたので、視線を車の走る方向に戻した。

 そこに在るのは『そこそこ立派』という程度の屋敷だ。

 随分とこじんまりしている。

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