第1593話、掴めない人柄
事情を理解した後は暫く無言で付いて行くが、それらしき所に辿り着かない。
流石にここに来て騙し討ちは無いと思うが、何か時間稼ぎをしている可能性も有る。
話しが早く済むと思っているからこそついて行っている以上、それはお断りだぞ。
等と思いつつ様子を見ていると、男は兵士が出入りしている建物へ近づいて行く。
頭目が居る様な場所には見えない。大きめの建物ではあるが、兵士の詰め所に見える。
「ここに『カシラ』が居るのか?」
「居るわきゃねーだろ。足を取りに来たんだよ。カシラの居る場所は港の近くだ。こっからじゃ見えねーと思うが、向こうの方だ。歩きじゃちっと遠い。おーい、誰か車の用意頼まぁ!」
つまりここは詰め所か。男が出した指示に従い、数人がパタパタと動き出す。
ただそのうちの一人が慌てた様子で男に近づいて来た。
兵士にしては線が細いし武装もしていないので、事務屋の類だろう。
「どうしました、応援が必要な事態ですか?」
「いや、人手はいらねえ。ちっとカシラに客人だ。歩いて行くには遠いんでな」
「お客人? この状況でですか?」
「この状況だから来たお客人だ。あんま詳しい話は聞かねえ方が良いぞ。俺も要点以上の事は聞いてねえ。カシラに判断して貰うつもりだ。ったく、面倒臭ぇ事この上ねえよ」
ふむ、事務屋と現場は関係が上手く築けない事も多い。
特にこの手の荒っぽい人間は、机に向き合うタイプの人間と相性が悪い。
だが二人の会話と態度を見る限り、関係は良好な様に見える。
「貴方がそう言われるならそうしましょう。ですが・・・大丈夫ですか?」
男は中々信用が有るのか、事務屋に反対は無いらしい。
それでも心配が有るのか、再確認する様に問いかける。
だが男の方はその疑問を鼻で笑い、肩を竦めながら口を開いた。
「カシラがどうにもなんねえなら、誰にもどうしようもねえよ。そういう街だろ、ここは」
「本当は良くないんですけどね、そういうの。一番生き残って貰わないと困る方ですし」
ここの海賊はこの街を仕切っていると聞いている。
街一つを任せられている海賊は、つまり領主という事だろう。
だがそんな海賊領主が一番強い、という事だろうか、今のは。
だが領主は本来後ろに下がっているもんだ。群の指揮を執ったとしてもな。
頭に死なれるのが一番困る以上、本当は危ない事はなるべく避けて欲しい。
事務屋的にはそんな考えで、現場の人間からすれば頼りになるカシラか。
「文句は俺じゃなくてカシラに言ってくれ。そういう『体制』ってのも、決めんのはカシラとアンタら役目だろ。小言はそっちで頼まぁ。俺達だとぶん殴られかねねぇからな」
「子供みたいに拗ねられるのも、それはそれで困るんですけどね。はぁ」
海賊の頭は兵士はぶん殴るが、文官は殴らないという事だろうか。
それともあの男だけが殴られないのか。人間性がまだ掴めんな。
等と考えていたら、車の用意が出来たと声がかかる。
兵士を運ぶ用の荷車に近い物で、獣はあの四足の鳥だ。
「とりだー!」
『羽だー!』
「もふもふー!」
『羽が! 羽がいっぱい! 早く落とさないかなー!』
そしてそのタイミングで精霊が戻って来て、シオと一緒に突撃して行った。
まあ、うん、予想はしていた。お前らの趣味を考えたら当然だろうな。
「あっちは子供らしくて可愛いな。まあ、あの図体の獣に突撃していくガキは珍しいが」
暗に、俺は子供っぽく無くてかわいくない、と言っているな。その通りだが。
ただ鳥は羽の中をモゾモゾはい回る精霊が気持ち悪いらしい。
羽をばっさばっさ動かし、足もドタドタと踏み鳴らしている。
「ギー!」
「うわっ!? ど、どうした、珍しい。おめぇがそんなに不機嫌になるなんて。ぶへっ。何だ、羽の間に何か挟まってんのか? んー・・・なんもねえぞ? ぶふぁっ!? 解った、解ったから暴れんなって! どこだ! ここか!? この辺りに何か有んのか!?」
『うわー! 落とされた!!』
「だいじょうぶ、おちついてー。わぷっ」
精霊は落ちたが結局鳥の機嫌は直らず、別の鳥と交換になった。
・・・なんでこう、コイツは本当に行動の邪魔しかしないのか。
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