第1592話、街の状況の理由

 街の中へと入り、男をついて行きながら街中を観察する。

 本来は人通りの多い大きな道だが、歩いている人間の姿は少ない。

 それも歩いているのは大半が兵士らしき者達で、一般人の姿は稀だ。


 おそらくは避難指示が出ていて、出来るだけ屋内に居るようにしているのだろう。

 住民の民度が良いのか、単純に兵士達が信頼されてい居るのか。

 それとも兵士に逆らうのが怖いから、きっちり従っているのかは解らんがな。


「ああ、そうだ。ちょっと聞きてえ事が有る」

「何だ」


 そんな風に街を観察していると、おもむろに男が口を開いた。

 視線を男に戻すと、男は一瞬後ろを振り向いてから、また顔を前に戻す。


「ちょっと遠くの山で、この辺まで響く様なでけえ音が鳴った。んーで魔術師共が慌てて魔力を探った結果、馬鹿みてえな魔力も感知したそうだ。その魔力量から察すると、もしこれが魔獣であったなら、この辺りじゃ絶対に無いレベルのヤベー魔獣って話だ」


 岩の魔術と土の魔術は、移動に使う魔力量自体はそこまで多くは無い。

 攻撃や防御に使っている訳ではないからな。そこそこ程度にしか魔力を込めていない。

 だが一定量以上を籠めなければ、辺境の魔獣に叩き落される危険がある。


 何処かにぶつかって壊れたり、そもそも岩を運べるほどの力が無かったりと。

 なので込めている魔力を感知できるなら、それは確かに焦っておかしくないか。

 少なくとも辺境の入り口に近い森の魔獣が、魔力を纏ったぐらいの魔力は有る。


「しかもそいつは空を飛んで来てるってー話だ。街がこんな状態なのはそれが一番でけぇ。地上を行く獣なら、避難も何だかんだ何とかなる。この街にだって腕に自身の有る連中は居る。だが空を飛ばれると、どうしたって攻撃の手が限られる。逃げ回られたら尚の事面倒だ」


 ただ強い魔獣が現れたからではなく、空からの襲撃を警戒しているからか。

 確かに地上を行く魔物であれば、兵士が壁になれば何とかなる。

 だが空を行く魔獣を抑えるには、こちらも空を飛ぶか、遠距離攻撃が必要だ。


 それも空を自由に飛べる様な相手に通用する遠距離攻撃が。

 となると必然的に、単独なら人の魔術を極めた先に魔術師が要る。

 集団なら統制のとれた、面攻撃が出来る技術を持つ兵士が多数要る。


 万が一に街中に入られた場合、人が出歩いていると面攻撃が出来ない。

 死にたくなければ家の中に避難していろ、という話になるのは当然か。


「んで、そんな面倒な話で騒ぎになって、素早く調査隊組んで、周辺の街にも伝令を走らせたのがついさっき。俺達もその為に門前での警備になった訳で、そこに怪しい三人組が来た」

「そんなに怪しかったのか、その三人組は」

「てめえ等だよ、てめえ等。解ってて惚けんな。怪しさしかねえだろうが」


 まあ、そうだろうな。そんな騒ぎの中、街道も通らずに現れた三人組。

 普段なら怪しくは無いだろうが、今回に限っては見逃せない不自然さがある。

 故に素直に街に通す訳にはいかず、俺達を捉えて尋問をする気だった。


「はぁ・・・下らねえ茶々を入れて話の腰を折るのが好きなのか、てめえは」

「そんな趣味は無い」


 何だその、何処かの精霊に下す様な評価は。違うぞ。俺は絶対に違うぞ。

 シオ、何だその目は。やっぱり似た者仲良し兄妹だねって言いたそうな顔は。

 男は頭をガリガリと書いて溜息を焚くと、話の続きを始めた。


「んでまあ、その三人組の一人は、正直心底関りたくねぇ面倒なガキだ。どう考えても街の兵士共を率いる一隊長様にゃあ荷が重ぇ。そんな面倒なガキが、このタイミングで来たんだ。俺にはどうしても、あの騒動とてめぇが無関係とは思えねぇ。何か知ってんじゃねえのか」

「知っているな」


 そもそも俺だからな。この騒動の原因は。知っているというよりも当事者だ。


「あー、そう。そっすか。はいはい。なら話が早ぇ。その話を上司様の前できっちりしてくれ。そのせいで船を出すのも見送ってる現状だからな。船に乗りたいなら、てめえだって困るだろ」

「お前に、じゃないのか」

「今言ったろうが。一隊長様にゃ荷が重ぇんだよ。面倒臭ぇしな。そういうのは俺の仕事じゃねえんだよ。伝令役なら兎も角、詳しい事情を知ってる奴が傍に居るなら、直接カシラに会わせる方が話が早ぇ。どうせ俺が知った所で、何かできる権限がある訳でもねえしな」


 カシラ。頭か。これで確定だな。これから会うのは、海賊の頭だ。

 つまりはこの街のまとめ役で、船に乗る交渉には最適な相手だな。

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