第1585話、当然と言えば当然

「さて、目的地らしい港だが・・・この距離は補足されているだろうか」


 空を飛んでいるので、こちらは遥か彼方を見る事が出来る。

 かなり先の方に港街が見え、だが街から俺達は小さな点にしか見えないだろう。

 なので補足されている可能性は小さいが、それは視覚に頼った場合だ。


 もし魔術に長けた者が街に居れば、俺達を感知していてもおかしくは無い。

 何せ馬鹿みたいな魔力を垂れ流して移動しているからな。

 近づいたら一発で気が付かれる。森の近い街からの攻撃もほぼ確実にそのせいだ。


 今頃、馬鹿みたいな魔力の魔獣が国に入り込んだ、と大騒ぎになっているだろう。

 その騒ぎはあの街に留まらず、暫くすればこの街にも届きそうな気がする。

 何せ俺の飛んでいた方向に在った街は、現状この港街だけだからな。


「ま、その時はその時か。取り敢えずあの辺りの山にでも下りるぞ」

「うっ」

「きゅっ」

『よーそろー!』


 船じゃないしお前は操縦して無いし先に落ちてろ。

 精霊を地面に強めに投げ捨ててから、宣言通り地面に降りる。

 真下は衝撃で土煙があがっており、視界が悪いので少しズレた位置に。


 それから前回と同じ様に、一旦樽の類は隠す事にした。

 持って行っても別に構わないが、色々と何癖も付けられそうだしな。

 つけられた所で殴り倒すだけだが、態々面倒を作る事も無い。


 その上で何癖を付けられるなら、一切容赦する気など無いが。

 

「この辺り、意外と暑いな。この格好では目立つか。敵地に行く以上、出来ればこのままが一番良いんだが・・・仕方ないか。シオもヨイチも着替えておけ」

「おきがえだー!」

「おきがえー」


 シオは何が楽しいのかご機嫌に着替え、ヨイチもそれに付き合う様に着替える。

 俺もパパッと着替えた所で、精霊が半泣きになりながら帰って来た。


『ねえねえ妹、上に投げられるのは良いけど、地面に叩きつけられるのはちょっと痛いよ?』

「解った。次から全力で地面に叩きつけるように気を付ける」

『違うよ!? 痛いから止めてねって言ってるんだよ!?』

「解った。今度は身体強化も全力で済ませてからやる」

『何で!??!?!?』


 精霊に当然の事を答えたら、少し走って見晴らしの良い高所へ向かう。

 街の方向を確認し、今回は身体強化をせずに走る事にした。

 強化せずともこの距離ならすぐに着くし、魔獣だ何だと騒ぎにもならんだろう。


 特にヨイチの魔力を感知されたら、実に面倒な事も解っているしな。

 二人にはそう指示し、精霊には無意味なので何も言わずに走り出す。

 こいつ等を感知できる魔術師が居た場合は、もうどう足掻いても無駄だからな。


『今回はどーんって入り込んで行かないのー?』

「やる理由が無い。勿論それでも、向こうから仕掛けて来れば話は別だがな」

『前回はやろうとしたのにー?』

「アレは仕掛けて来たのは向こうが先だろうが」


 精霊が言うのは、水晶を持った王女との話だろう。アレは俺から仕掛けた覚えはない。

 無論俺達を感知して警戒をしたのは解るが、俺から仕掛けた覚えは一切無いぞ。

 今回もそれと同じ事だ。こちらから仕掛けるつもりはない。理由が無い。


 だから大人しく通るつもりだが、邪魔をされるなら大人しくするつもりは無い。

 何が有ろうと通るつもりだからな。その点で言えば前回より我が儘を通すつもりだ。


「船を出せないなどと言われたらどうするか・・・航海図でも奪うか?」


 一応多少は読めるからな。暗号化されていない限りは大丈夫なはずだ。

 結構あるんだよな。持ち主と仲間以外に読めない様にしている航海図とか。

 地形そのものも若干誤魔化し、必要な航路の説明にも嘘が混じった物が。


 特に特定の所と取引していて、それを隠している場合なんかにな。

 そういう航海図を下手に信用すると、船は当然沈む羽目になる。


 この世界には魔獣が居るから、その辺りも含めて解決策が要る。

 ただ潮の流れや地形だけではなく、安全な海域を通る必要がある。

 なので航海図なんかは、このぐらいの文明レベルだとまだ宝の類だろう。


 もうちょっと文明が進化していれば、そんな暗号何の意味も無いんだがな。

 ジェットで進んで、ミサイルで撃ち落として、魚雷で爆散させてと。

 とはいえ強い魔獣に機械文明がどこまで通用するか、というのは気になる所だが。


 少なくとも辺境の魔獣達には、下手な銃器では通用しないだろう。

 等と考えながら走る事暫く——————。


「・・・兵士の集団が向かって来るな」


 恐らく俺が投げ捨てた精霊の調査であろう者達が、こちらに向かって来るのが見えた。

 思いきり地面に投げつけたからな。遠目でも異常事態にしか見えなかっただろう。

 さて、身を隠すか、そのまま行くか。面倒を避けるなら身を隠す方が話が早いが。

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