第1576話、精霊との仲

「さて、方針は決まった訳だが・・・」


 どうせ最初から決まっていた事を、さも今決まったかのように言いやがって。

 まあ良いだろう。俺に不利になる話じゃないからな。むしろ利点の方が多い。

 俺の目的は結局の所、自由に生きる事だ。その為に強さを求めているに過ぎない。


 そして俺の敵になる相手が減ると言うなら、全くもって悪くない話だ。

 勿論敵を減らす為に、俺が気を使って行動する事は決してないがな。

 今生は自由に生きると決めた以上、例え敵が出来ても常に好き勝手に振舞う。


「出発の日はどうするんだ。流石に今日慌ただしく行く事も無いだろう。とはいえ、長々と滞在するとは思っていないが」

「そうだな、どうするか・・・」

『兄はもう少し居ても良いと思う。妹も体、回復しきってないし』


 体か。俺としては、もうほぼ問題無いと思うんだがな。肩の違和感も取れたし。

 昨日は鍛錬に時間を費やしたが、しっかりと休んだから疲れも残っていない。

 なので遅くとも明日には出発するつもりだったが、精霊から見れば本調子に見えないのか。


 肩の事は違和感を承知の上でだったんだが、自覚の無い不調というのは若干困るな。

 そう思い少々悩みながら精霊を見詰めると、何故か精霊はワタワタと慌てだした。


『妹が心配なだけで、けして兄がお菓子を食べたいとか、お茶を飲みたいとか、お菓子を食べたい訳じゃないからね。出発すると食べられないからじゃないからね! ほんとだよ!』

「コイツ・・・」


 語るに落ちる、という言葉がここまで似合う行動もそう無いだろう。

 この野郎、真剣に考えていたのが馬鹿みたいだろうが。

 そもそも本気かふざけているのか、どちらか全く解らないのも余計に腹立つ。


 反射的に足を上げていたが、また床を踏み抜きそうなので我慢してゆっくり下ろした。

 そんな俺の行動を見ていた新女王は、怪訝な顔をしながら俺の足元に目を向ける。


「少々気になっていたんだが・・・もしかして貴殿と精霊殿は余り仲が良くないのか?」

「全く良くないな」

『兄と妹はとっても仲良しだよ!?』


 完全に正反対の事を言っているが、彼女には俺の声しか聞こえない。

 なので余計に眉間に皺が寄り、困惑の色が濃くなっている。


「精霊付きとは、精霊に好かれた存在の事を言う、というのが私の認識なんだが・・・」

『そう、兄は妹を愛しているからね! フンスフンス!』

「それ自体は間違っていないが、だからと言って俺がコイツを気に入っているかは別の話だ。常にやかましいし、余計な合いの手を入れまくるし、会話の邪魔にしかならん。不愉快だ」

「ああー・・・そうか、なる、ほど、うん」


 余程納得がいったのか、足元とシオを見てから数回頷く新女王。

 俺の性格をある程度把握した今、陽気に踊る精霊と合わないと解ったのだろう。


「シオ殿からは仲良しと聞いていたからな、余計に良く解らなかったんだが、今ので物凄く納得出来た。精霊付きと言うのは、そういう事もあるんだな」

「にーちゃとみーちゃ、なかよしだよ?」

『そう、兄と妹はとっても仲良し!』


 完全に納得した新女王だったが、そこでシオが納得いかないと口を挟んだ。

 俺と精霊は仲良しだと。その認識以外は認められないと。

 ちょっと不満そうに頬を膨らませながら、俺達の会話を否定する。


 そうか。そういう事を言うのか。成程分かった。


「シオも精霊と仲が良いぞ」

『ええ、その通りだわ。愛しの―————』

「よくない。シオ、なかよくない。さかな、よくない」

『—————娘と、仲良しよ? 愛しているわよ?』

『やーい、魚のさかなー! 久々に喋ったと思ったら妹の妹にふられてやんのー!』


 魚の言葉を食い気味に否定し、先程よりも不満そうな顔を見せるシオ。

 口を一文字にした、中々見ないぐらいに不満顔だな。

 何だその目は。俺はお前と同じ事をしただけだぞ。


「・・・似た者姉妹なんだな、君達は」


 今のを見て、何処が似ていると思ったんだ。

 俺達は全く似てないぞ。少なくとも俺は陽気に踊らん。

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