第1575話、全ては悪党

 何とも俺に都合の良い展開だ。余りに都合が良すぎる。

 偶然辿り着いた国で、偶然にも連中をあぶりだせる方法を手に入れたか。

 いや、この国で起きた騒動を考えれば、都合が良いとも言い切れんな。


 ヨイチは一度死にかけているし、シオも少々危なかった。そして俺も死にかけた。

 本当に都合良く進むなら、そもそも危険な状況など一度もない筈だろう。


「とはいえ、既に連中は逃げてる可能性もあるがな。前回もそうだった」


 俺が国を潰した時は、既に連中は仕込みを終えて国を去っていた。

 むしろ去る準備が済んでいたからこそ、大きな行動をしたとも取れる。

 そして今回も同じ展開だとしても、何ら不思議でない。


「だが、だとしても貴殿は行くんだろう?」

「そうだな」


 例え俺の本当の敵が、連中が居なくても、俺の行動は結局変わらない。

 俺に喧嘩を売った連中の下へ行き、その喧嘩を全力で買ってやるだけだ。

 後ろに連中が居なかったとしても、国が喧嘩を売って来た事実は変わらない。


「ならばそれで良いさ。先に貴殿に仕掛けたのはあちらだ。貴殿はこの周辺で暴れた事は無い。つまり、かの国と関わった事は無い。だと言うのに一方的に貴殿に仕掛けた。それも、人に害をなす化け物だ、等という言いがかり付きでな。という事にすれば良い」


 つまり彼女の言う事は、事実はどうあれ滅ぼされても文句は言えない形にするつもりか。

 俺は別に仕掛けるつもりなど無く、だが排除に動かれたのを察知した故に仕方なくと。

 むしろ連合を組んででも殺そうという動きが有れば、潰しにいって当然だろうと。


 勿論容赦なく一国を潰せば、むしろ潰させる事が狙いの可能性が有る。

 やはりあの精霊付きは化け物だと、その証明の為の罠の可能性もある。

 俺の今までの行動を考えれば、確実に潰しに行く出来事だからな。


 だが実際に俺がこのまま国を潰せば、一つ問題がある事も解ってる。

 言いがかりをつけられてはいるが、まだ実際には国は動いていない。

 つまり、まだ仕掛けられていないんだ。少なくとも大きな実害はまだ無い。


 なのに国を潰せば、流石に過剰で過敏な行動過ぎるだろう、という認識にもなりかねない。

 勿論そんな事は最初から解っている。辺境領主だって解っているはずだ。

 だがそれでも潰す。潰しに行く。俺に喧嘩を売った相手に容赦はしない。


 世間の認識がどうであろうと、俺にしてみれば仕掛けたのは向こうだ。

 とはいえ俺がどう主張した所で、世間で違う認識が広まれば止める術は無い。


「先に動いた事にするのか、連中が」

「動いているだろう。既に、我が国も既に被害を受けている。呪いの道具の件でな」

「だがそれは、裏に連中が居るならばの話だぞ」

「どちらであろうと構いはしない。たとえ後ろに居なくとも、証拠の無い噂と被害の状況が噛み合い過ぎている。手を組んでおらずとも、利用しているのは確かだ。ならば同じ事だ」


 確かに、それもそうか。手を組んでいようがいまいが、どちらも敵だ。

 ならばこちらも手段を選ぶ必要は無い。その手段を逆手に取ってやれば良い。

 周辺国も呪いの道具の件に気が付いた以上、仕掛けた相手を探している。


 そしてその相手が、たとえ間違いであっても、恨みをぶつける場所を欲しているはず。

 特に民の感情をぶつける相手を。暴動が起きない様に、収める手段を欲しているはずだ。


「悪党どもが」

「貴殿に言われたくはないな」

「ふふっ、似た者同士という事ですね」


 誰も彼も真実などどうでも良い。ただ自分にとって都合良く話を進めたい。

 全員が悪党だ。全員が我が儘だ。だがそれで言い。それが良い。

 どうせ世の中の大半は悪党だからな。悪党同士潰し合う現状は俺の望む所だ。


 楽しくなって来たじゃないか。やはり悪党としての生き方は正解だな。

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