第1574話、そっくりだ
「だがそれは、お前一人で決めて良い事じゃないだろう。国の方針に関わる事だ。この国の重鎮共が反対するんじゃないのか。それこそ今回俺と事を構えた様に」
『兄は妹の言う事なら全部賛成するのに。なってない奴等だ!』
俺とコイツ等の決定的な敵対は、この国の意思統一がされていなかった事が理由だ。
小国で、街一つしかない国だと言うのに、一つに纏まっていなかった。
ならば今回も同じ様に、彼女の意見が通らない可能性もあるはずだ。
「通す」
「通します」
だがたった二人残った王族姉妹は、一切を構わない断言をした。
通せるか、通せないかではない。通すのだと。
出来る出来ないなど一切気にしていない。やるのだと。
「貴殿が私達の誓いを、どういう意味で受け取ったのかは解らん。むしろどう受け取っていようとどうでも良い。だが私達にとっては、それは絶対に果たさなければいけない誓いだ」
「貴女はこの国を救ってくれた。私達を救ってくれた。貴女にその意図が無くとも、私達がそう思っているのです。だから勝手に恩を返すのです。返さなければ顔を上げられないのです」
国民の反対が有ろうと、この誓いだけは絶対に果たす。
重鎮共の反対が有ろうとも、そんな言葉は一切を意に介さない。
姉妹の誓いは、それよりも上に在るのだと、そう告げて来た。
女王になる為に、国を守る為に存在する者達が、俺を国より上だと。
「国民共が聞いたら卒倒しそうだな」
『ならば兄が妹コールをするまで鍛えてやる! いっもうと! いっもうと!』
「貴殿が居なければ、この国の存続も怪しかったはずだ。であれば、国民にとっても貴殿は恩人だろう。何よりもこの国にとっては、貴殿は私を作り上げた大恩人だ。反対はすまい」
そういえば、そういう事になっていたんだったか。つい先程の事なのに忘れていた。
この短時間で濃い話をしたせいだな。どうでも良いと思っていたせいでもあるが。
別にこの国に感謝されたくも無ければ、お前達からの感謝も要らないしな。
「お前、最初からこの話をするつもりで女王に葬儀をさせたな?」
『いっもうと! あ、それ、いっもうと! あ、よいしょ、いっもうと! あ、どっこい!』
少々おかしいと思っていた。余りに露骨が過ぎるとは思っていた。
俺への悪感情を抑えるだけなら、母親が死んだ時の演説だけでも問題は無かった。
勿論多少の反発は在っただろうが、それでも前女王の姿を見てしまえば話しは変わる。
ある意味生きている様な物だ。そして新女王は強い力を持った英雄だ。
俺の事等、この国から消えれば忘れる話だろう。それだけのインパクトは在った。
何よりこの国は代替わりが激しい事もあり、老人共にとってはそこまで引きずりはしない。
むしろ歴史に類を見ない女王が生まれた。その事の方が重要だとすら考えるだろう。
だが、俺に恩が有ると告げた。俺が居たからこそだと、俺が居なければ駄目だったと。
それこそ俺が精霊の力で持って、新女王の力を開花させたかの様に。
「ああ、似た様な事はするつもりだった。苛烈な精霊付きの話と、貴殿の行動の印象がどうしても被っていたからな。無関係ではあるまいと思っていた。だが流石に、そこまでの外道が絡んでいる事は予想していなかったがな。世の中どんな人間が居るか解らんものだ」
「昨日の内にお姉様と、お母様、それに一部の信用出来る者達も含めて相談し、殆ど決定事項として話を進めております。たとえ断られたとしても通します。それが私達の生き方です」
しかも既に話を通していやがった。断られても知った事かと来たか。
俺に恩を着せる気など欠片も無い訳だ。ただひたすらに恩返しな訳だ。
だからできる限りの最大限をもって、それこそ国の害になろうとも味方となると。
そうでなくては胸を張って生きられないと言っているんだ。この姉妹は。
この判断が間違っているとしても、それでも曲げられる事ではないと。
実に我が儘で、何処かの誰かにそっくりだ。全くもって親子過ぎる。
「お前等、母親に似すぎだろう。大馬鹿共が」
「光栄だな」
「最上の誉め言葉です」
皮肉を言ったのが解っているだろうに、二人とも満足そうに笑いやがって。
それどころか控えている女中まで嬉しそうにするな。普通は止める側だろうが。
「・・・ところで、シオ殿は何をしているのだろうか」
「精霊と一緒に踊ってるだけだ。もう面倒臭いからほっとけ」
『あ、そっれ! あ、いーや! ア、ハイハイハイハイ!』
「うっ! うっ! ううっー!」
本当に、真面目な話をするのに邪魔だなコイツは。シオも釣られるな。
ヨイチも優しい目で見つめてないで止めろ。いや無理か、コイツには。
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