第1573話、敵のあぶりだし方の一つ

「今回の誓いを、各国へと送る。貴殿との敵対は、同時に我が国との敵対だと知らせる。それだけでも貴殿と敵対する『理由』を大きく減らせるだろう。貴殿を排除する理由よりも、排除しない方が良い理由が大きくなる。我が国は小国だが、武力に関しては大国に引けを取らん」

「・・・成程」

『ほどほどー』


 確かにそれは牽制になる。この国が敵になるのは避けたいだろう。


 俺だけか、この国だけなら、まだ違ったかもしれない。

 だが精霊付きと呪いの道具の使い手を、同時に敵に回す事はしたくないはずだ。

 それは化け物を二人相手にするのと変わりない。それ相応の被害が確実に出る。


 何よりも相手にする意味が無い。何故なら片方は明確な『国』なのだから。

 俺の様に何処にも所属しない、ただ自由に生きている個人ではない。

 周囲の国と上手くやって来た存在で、周辺国にとっては大事な『壁』だ。


 辺境の魔獣を防いでくれる大事な壁の国。それだけの力を持っている国。

 もしこの国を滅ぼしてしまえば、その後ろの国が損をする事にもなるだろう。

 今まで以上の軍が必要になる。警戒が必要になる。良き隣人が居なくなる。


 きっと何人も死ぬだろう。強力な魔獣の防衛に金も人も、最悪土地も失うだろう。

 そんな敵対するだけ損をする国が、敵対したくばするが良いと通達する訳だ。


「だがそれは、この国を危険にさらす事になる。その話は貴様の、いや、水晶の存在ありきの警告だ。もし戦争をするという事になれば、貴様はこの国を離れる事になる。それが出来ないという考えがあるからこそ、周辺国も貴様と友好的な部分もあるんじゃないのか」

『そうなの? どうして? あ、いや、解ってるよ。うん、兄だからね!』


 この国の戦力は、言ってしまえば女王頼りだ。兵士の力はそこまでではない。

 勿論壁に立つ人間達は、死ぬ覚悟が出来ている兵士だろう。

 魔獣の圧力にも負けない胆力もある。俺の魔力を受けても気絶しなかった。


 だが、その程度の兵士はどの国にだって居るだろう。

 連中は自分達が魔獣を殺す為ではなく、女王が自由に動ける為の壁だ。

 つまり自分達で魔獣を殺す、という意思であの場に居る者は少ないはず。


 辺境の騎士達の様に、自らが魔獣を殺す為の鍛錬を積んでいるとは思えん

 ならば女王が居ない隙を突かれれば、この国は簡単に瓦解する。


「勿論危険はその通りだろう。だがそこまでして我が国を滅ぼせば、後に残るのは私という復讐者だ。その程度の事も考えられん国ならば、逆に周囲の国に滅ぼされるだろうよ」

「確かに、そうか」

『それだよ! 兄は最初から解っていたからね! だから疑問だったんだ! ふふーん!』


 結局の所、何処まで行ってもこの国は女王が最大戦力だ。

 つまり女王を殺さない限り、この国が滅んだとは言えない部分がある。

 例え民の全てを皆殺しにしたとしても、最大戦力が残っている限り止まらない。


 むしろ女王を殺せないなら、この国を滅ぼした所で最悪の未来が待っているだけだ。

 つまり国を滅ぼした国が、その惨状を見た女王に滅ぼされる。一切の容赦なくだ。

 結局はやはり損しかない。敵対するだけ無意味だ。女王を殺せる力が無い限り。


 もしそれでも手を出す判断をする国は、余程の馬鹿か、それとも。


「成程、本当の敵なら、それでも仕掛けて来るか」

「そうなるだろうな。我が国はこれでも歴史が長い。小国では有るが、小国である事を良しとしてきたが故に周囲も特に害をなしてこない。むしろ良い様に利用している。国を守る金のかからない壁としてな。普通ならその判断を違えない。違えるとするなら、それなりの理由が有る」


 つまり各国に知らせるという行為は、敵をあぶりだす手段でもある訳だ。

 常識的な国家のする判断が出来ない国がある。馬鹿な事を平気でやる国がある。

 それはつまり敵が潜んでいる可能性が高い。後ろで操っている人間が居る可能性が高い。


 国の利益を排した思考。狂人の思考をした者が、背後に居る可能性を見出せる。

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