第1577話、今後のやり方は
「私共としては、暫く滞在して下さっても構わないのですけど。歓迎致しますよ。シオちゃんも何時もの様に、厩舎へ遊びに行きますか?」
「うっ! ネズミのおせわ、する! ヨイチはどうする?」
「きゅっ? ヨイチは、ねーちゃと、いしょがいい」
『兄は何時も通り両方についてるよ!』『ついてるよ!』
『私は当然愛しい娘と一緒よ』
俺達の様子が少々悪いと感じた妹の方が気を使い、シオのご機嫌を取り出した。
恐らく俺の機嫌を取るよりも、シオの方が簡単だと思ったのだろう。
しかしこの二人、というか三人か。随分と関係が良くなっている。
この辺りの事は確かめていなかったな。本来は今日出発するはずだったし。
気にしても意味が無いと思っていたんだが、こうなると流石に気にはなる。
「シオ、もう良いのか、この二人の事は」
「う?」
俺に問われたシオは、一瞬何の事か解らないという顔を見せた。
それぐらいに警戒が解かれていた様だが、直ぐに何の事か察した様子を見せる。
「いいよ。もう、いい。ふたりは、そんなに、わるくないから。なにもしてないもん。わるいのは、ヨイチにてをだしたこと、てつだったひと。だから、もういいんだ」
「そんな事はあの時も解っていただろう。判断材料としては変わらんぞ」
「だって、あのときは、しんじられなかったから。それに、シオ、よゆうなかった」
「余裕、か」
確かにあの時のシオは、普段の緩さが欠片も無かった。
怒りと殺意が混じった様子で、冷静とは言い難い様子だった。
だがそれも当然だろう。大事な弟が殺されかけていたんだからな。
だとしてもその事実がある以上、余裕があっても信じられるとは思えんが。
「わるいのは、わるいことしたひと。シオ、なんども、そういった。だから、ふたりのことを、ずっとせめるのはちがう。みーちゃは、あまいって、いうとおもう。けど、シオはそうおもう」
「そうだな、甘いな」
俺は別にこの姉妹を信用してはいない。敵対する理由が無いだけだ。
けじめはつけた。女王との戦いで気もすんだ。だからもう良いというだけだ。
許したつもりは無いし、容赦もしたつもりは無い。もう興味が無いだけだ。
あえて挙げるなら、女王が居るから関わっている。そんな所だ。
新女王から母親の面影を感じるせいで、多少判断が緩くはなっているがな。
だがどちらにせよ、俺はこの二人を信用する気にはなっていない。
あの件で二人が悪くないなど、欠片も思っていないからな。
何なら母親だって悪いぞ。あの小娘は明らかにこの国の王族として欠陥だ。
だと言うのに徹底しなかった。ならばコイツ等に責任が無いなどとは言わせん。
二人はそれが解っているからこそ俺に従い、女王も俺が気持ち良く殺せるようにした。
結局は全力で殺し合いではあったが、ただ老婆を殺すよりは余程気分は良かったからな。
「うん。でもヨイチがころされかけたことは、どうしたってゆるせない。ぜったいにゆるせない。きっとずっとゆるせない。だから、シオは、だれがわるいのか、ちゃんときめたの」
ただシオの中の怒りは消えていない。危機感も消えていない。
おそらくは小さな殺意も、相変わらず胸の内に残っているだろう。
シオにとってはそれだけの事だった。絶対に許せないと断言する事だった。
だからこそ、許せない相手を見極めた。許してはいけない相手を決めたんだ。
俺が女王を殺した事で終りにした様に。シオの基準で事の整理を付けた。
後でまた仕掛けて来るのであれば、その時は全力で殺すつもりで。
甘い判断をしたツケを受けようとも、それも許容して二人を許すと。
「シオは、しっぱい、いっぱいするもん。だから、しっぱいしたひと、せめたくない。わるいことしようとしたひとと、しっぱいしたひとは、ちがうでしょ?」
「さてな。俺には同じ事に思える事も多いがな」
悪意が無くとも、悪意に近い行為をする人間は居る。
善意の塊の行動でありながら、悪意よりもたちが悪い時もある。
悪気の無い失敗だとしても、それで人の命を奪う者だって居る。
だからこそ、俺はシオの判断が甘いと感じる。失敗の度合いを無視していると。
それでも別に構いはしない。シオと俺は違う。それは以前から何度も言っている事だ。
「うん、わかってる。わかってるよ。だから、シオ、きをつける。きを、つけるよ」
何よりも、シオの返答からの気配に、今までとは違う強さがあった。
自分の在り方を、一番心地の良い在り方を通した上で、覚悟を決めた気配が。
「そうか。ならそれで良い。お前がそれで良いなら好きにしろ」
「うっ! ありがと、みーちゃ!」
礼を言われる理由は無い。失敗も成功もお前の責任と言ったんだからな。
まあ、もう解ってはいると思うがな。何だかんだコイツは利口だ。
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