第1571話、嘘を吐くべき

「少し熱くなってしまったな」

「ですね」


 俺が精霊を投げつけ話を中断した事で、姉妹は少し冷静になった様だ。

 まあ話す場所も変えた事で、思考する時間が出来たんだとは思うがな。


「確かに我々の意図とは関係なく、貴殿を悪人に仕立て上げる事は可能か。人の命を容赦なく奪うという点では、貴殿を知らない一般人にとっては変わりない」

「精霊付きの脅威は、知っている人間は知っていますものね。制御の効かない精霊付きが理不尽に暴れて国を潰しているという認識が広まれば、排除に動いてもおかしくは無いでしょう」


 そして冷静になってしまえば、この姉妹とて俺と同じ思考に至った。

 俺個人を知っているかどうかではなく、俺という存在の認識がどうなるかだと。

 姉妹の場合は俺と相対した事で、俺がどういう生き方をする人間かを解っている。


 故に違うと断言はしたが、それは一般人の思考に寄った考え方ではない。

 一般の人間は俺の事を知らん。俺の拘りなんぞ欠片も知らん。

 故にどちらも同じ存在だ。理不尽に死をばら撒く力を持った化け物だ。


「とはいえ、貴殿に改善の気持ちは無いのだろう?」

「欠片も無いな。今後も俺は同じ行動を通し続ける」

『妹は頑固だからねぇ』


 頑固と言われようが何だろうが、この点に関しては譲る気は一切無い。

 俺の身に理不尽が降りかかるのが嫌なら、最初から大人しくして居るべきだった。

 これは俺が自由に暴れた結果だ。好き勝手に我が儘に生きた結果起きている事だ。


 ならば全てを受け入れるべきであり、嫌がって行動を変えるべきではない。

 もしここで俺が行動を変えるなら、俺の我が儘で死んだ兵士達はどうなる。

 本当に無価値な死じゃないか。職務に全うした連中の死を無意味にすると言うのか。


 絶対に断る。連中が職務に殉じる結果になった事を、俺の都合で汚す様な真似は。


「俺は人殺しの悪党だ。その誹りを受けても否定する気は無いし、純然たる事実だ。だからこそ俺はこの手で何人も殺して来たし、殺される覚悟も出来ている。生き方を変える気は無い」


 既に二けたでは足りない数を殺して来たからこそ、俺は絶対に俺であり続ける。

 その結果国が連合を組んで敵に回るなら、正面から受けて立ってやろう。

 あらゆる手で俺を殺すと言うなら、俺もあらゆる手でもって足掻いて見せよう。


 何処までも我が儘に。何処までも自由に。俺は俺の生きたい様に生きて死ぬ。

 それが俺の、今生での一番の目的だ。だから、その一点だけは、絶対に譲れない。

 俺が俺である為に。俺が殺した者達の命は絶対に誤魔化さない。


 何よりそこを誤魔化してしまうなら、俺が外道と呼んだ連中と何が違う。

 俺達は同じ悪党だ。そこに関しては誤魔化し様の無い事実だ。

 だが連中の生き方が気に食わないからこそ、どんな不利が有ろうと曲げはしない。


 『自分はワルなんだぜ、ってかっこつけてる感じで可愛いよね』


 うるさい。そんなつもりは無い。本気で一切無い。

 むしろ悪事に手を染めている時点で、どう考えても恰好は悪いだろう。

 本当に恰好が良いのは、悪事に一切手を染めずに生きられる者だ。


 だがそんな物は夢想だ。夢物語だ。出来ない事は、俺の人生が証明している。

 世界は悪党が回しているし、悪党でなければ世界は回せない。

 綺麗事で世界は出来ていないんだ。だからこそ俺は悪党として生きると決めた。


 勿論善性を信じていない訳じゃない。世界の全てが悪だと断じるつもりもない。

 だが善意は悪意に食いつぶされる。善意に善意で全てが返って来る世界は幻想だ。

 そういう意味では、一番良いのは辺境領主の様な人間なんだろうな。


 悪党ではあるが、善性は持っている。世の中を理解している生き方の人間だ。

 だが俺にそんな生き方は出来ない。あんなバランスを取る様な生き方はな。


「ならせめて、魔核を喰らう事は、今後は余程信用出来る相手以外には語らないでくれないか」

「そう、ですね。それさえ明確に発覚しなければ、危ない精霊付き以上の話にはなりませんね」


 別に俺から話したくて話している訳では無いが、確かにそこは大きな要因だ。

 とはいえ本当に、話す相手は選んでいる。そもそも会話相手を選んでいる。

 俺は会話をする気の無い人間相手に、突っ込んだ内容など語らない。


 そもそもこの件に関しては、コイツ等も大概だという認識があるからだしな。

 姉妹の言葉では無いが、呪いの道具を持つ英雄を掲げる国など常軌を逸している。


「別に態々言いふらすつもりは無いが、あの魔術を使えば同じ事だろう」

「それは、あのネズミは精霊の能力、という事には出来ないか?」

『僕はそんな力持ってないよ!?』

「精霊の力か・・・まあ、無くは無いと思うんだが」

『そうなの!? 兄にそんな力が!? ま、まさか眠っている力が有るのか・・・! め、目覚める・・・!』


 精霊がモルモットを出せるかどうかは兎も角、俺の魔術の力は精霊の力だろうしな。

 魔獣の魔術が使えるだけではなく、制御が異常に滑らかで制限も無い。

 素体が魔獣の体というだけではこうはなるまい、というのは以前から解っている。


 故に本当の事ではないが、完全に嘘という訳でもないと言う所になるな。

 嘘をつく事に呵責がある訳でも無し、面倒も自ら起こしたい訳ではない。

 何度も嘘自体は吐いているし、面倒な時は適当な返事もザラだ。


 そもそも普段から、精霊の力を使ってない説明も殆どしていないしな。

 まあ良いか。別にそれぐらい。俺は悪党なのだしな。

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